終わらないエンドロールを眺めている
私の祖母は森に住んでいた。その頃の私はまだ自分が「何」であるのかさえ知らずに、ごく普通の生活を送っていた。だから、祖母だけ森に住んでいるのかについても「おとなのじじょう」ということしか分かっていなかった。父と母からは「森は怖いところだからおばあちゃんのところに一人で行ってはいけないよ」と言われていたが、祖母のことが大好きな私は父と母の目を盗んでよく通っていた。森に怖いことは何もなかった。そして、遊びに来る私を祖母はいつも優しく迎え入れてくれて、美味しいお菓子と素敵な御伽話を与えてくれた。私は祖母の聞かせてくれるお話が大好きだったから、いつも色んな話をせがんだ。その中でも特に好きだったのは、黒い猫の姿をした吸血鬼の話だった。何度も聞かせてとお願いしたのを今でもよく覚えている。
「いやーまさか御伽話の中の吸血鬼が実在するとはびっくり」
「おまえがそれを言うか?」
「それがしかもお隣の真昼くん家に居候始めるとは思わないじゃない? 私の人生における三大仰天事項にランクインしても良いくらい」
「うれしくねー」
「でも真昼くんのご飯は譲らないからね。あそこは私の安息の地なんだから」
「好きにしろよ。オレもおまえらに関わるつもりはもうない」
そう言って沈黙する終焉は私の顔から逃れるように目を逸らし、手元のゲーム機へと視線を落とした。それが何だか無性に悔しくて、彼の顔を両手でぐっと挟みこむと私の方へと向き直らせた。
「いたいいたいいたい。突然なにすんだお前、首がもげるかと思った。もっと優しく取り扱え」
「いやなんか今のやりとりにいらっときたから」
「理不尽な暴力はよくねーぞ。今は対話で解決の時代だ」
「吸血鬼の真祖がよく言うよ」
次の瞬間にはボンと音がしたかと思うと、一匹の黒猫がその場に居た。お腹を上にして甘えたポーズを取っている。どんなポーズをすれば自分が一番可愛く見えるか良く理解している上での行動だろう。
「ほら見ろ。こんなにかわいい黒猫だぞー暴力はんたいー」
「あ、私こう見えて猫アレルギーだから無理」
「この間、野良猫にすり寄られてただろ」
「じゃあ、猫嫌いなの。犬派だから」
「じゃあ」って何だよ。とその顔には書かれていたが、ばっさりと切り捨てられたことで観念したのか、また彼は人型へと姿を変えた。にこにこと笑顔を浮かべている私に対して、彼は「めんどうくさい」と思っていることを隠そうともしない。ただ、そのきっかけを作ったのは紛れもなく自分自身だから、彼としてもやりきれないのだろう。無視をするには私は似過ぎている。それを分かった上で、私が利用していることにも彼は恐らく気付いている。だからと言って、私も別に彼に何かをして欲しいと思っているわけではないから、一つ助け船を出してあげることにした。
「私たちはあなたたちほど長命じゃない。似てるかもしれないけど、私は私だよ」
「……知ってる」
「うむ、分かってるならよろしい」
「ただでさえ気ままな野良吸血鬼から主人なんかできてめんどくせーのに、なんだってこんなことに」
「開き直ったら案外何とかなるかもよ?」
「だいたいおまえ、この前までもっと違っただろ。「クロくん」とか呼んでなかったか」
「だから開き直ったんだってば」
「ほんっと、おまえみたいなのとは向き合えねー」
良い加減知らない振りをするのにもお互い面倒になってきていたから、頃合いだったのだろう。私の方は昔のことを引き合いに出すつもりはなかったのだが、彼の方がどうもそうはいかないらしい。勝手に面倒くさくしているのは自分自身だと、彼が気付くのはいつに何だろうか。
拍手御礼 [title by igt シロクロモノクローム]