いつもの呼び出し

 人が行き交う大学構内を図書館目指して歩く。平素よりも人が少ないのは、今がテスト期間だからだろう。ギルベルト自身もテストがあったが、今日の分はもう終わった。本来ならば、とっくに家に帰っている筈であったのにまだ大学に居るのは、呼び出されたのだ。そんなもの、いくらでも無視したかったが如何せん相手が悪かった。しかも必死に頼まれたのであれば、流石に断ることは出来ない。明日のテストだって俺様には余裕過ぎて暇だしな!アイツがあまりにも可哀相だから手伝ってやるだけだ!! 自分自身にそう言い聞かせながら歩いていると、目的地である図書館に着く。広い館内を回っていると、自習スペースの一画に探していた相手を見付ける。その人物は、レポートを書く為の資料であると思われる本を10冊以上積み上げて、机に突っ伏して寝ていた。

「おい、人を呼び出しておいて寝てんじゃねぇよ」
「………すー」

 声を掛けてみるが起きる様子は無い。そういえば、ここ数日はレポートの締切が続いて碌に寝れていないと聞いた。それならば、寝かせておいてやりたい気もするが、まだテストもレポートも残っている。いつまでも寝ているわけにもいかないだろう。それに、無防備過ぎる。危機意識が足りていない。最近図書館で頻発している盗難などではなく、もっと別の意味で。いつもは髪で隠れている耳が覗いている。其処にギルベルトは顔を寄せる。

こんなとこで寝てるこいつが悪いんだ。

ふわりと甘い匂いがした気がした。


「さっさと起きろ」

丸めた紙で頭を叩かれた。

「ん……あれ、わたし?」
「呼び出した当人が寝てんな」

恐らく跡がついているであろう額の辺りを擦りながら顔上をげると、直ぐ横にギルベルトが立っていた。

「あ、ギル。いつ来たの?」
「今だよ、せっかくメール見て直ぐに来てやったってのに。お前は寝てる暇なんて無いんだろうが」
「う、分かってるけど……でもこうもずっと本読んでると眠くなるんだよ」

 彼にメールしてからそんなに時間は経ってない筈だが、いつの間にか寝てしまっていたらしい。けど、彼の言う通り寝てる暇なんてないのも事実だ。

「お前はそうやってレポートに必要な箇所以外も読むから時間掛かるんだよ。で、俺に何して欲しいんだ?」
「……これに関連する資料探してきて欲しいの」
「資料探すだけで良いのかよ?」
「とりあえずは。後で他にも頼むかも。でも、本当に手伝って貰って良いの?ギルもまだテスト終わってないでしょ?」
「俺様はお前と違って事前の準備がしっかりしてるから大丈夫なんだよ。レポートだって全部終わってるしな」
「なんかギルに負けてるの屈辱だ……」

 得意げに見下ろしてくる様子に腹が立つ。ギルベルトは試験やレポートにおいては抜かりが無い。普憫のくせに。こうして手伝って貰うのも何も一度目では無かった。凄く感謝はしているが、それを口に出したことは無い。

「俺は別に手伝わなくても良いんだけどなぁ?」
「……ごめんなさい、手伝って下さい。御礼はちゃんとするから」

 御礼と言っても、大体いつも昼ご飯1週間とかそんなものだったりする。学食で奢るとかではなく、何故かいつも私が作った弁当を要求されるけど。一人分作るも二人分作るも、あまり変わらないのでそんなに大変では無いが。

「あー……今回は良い。もう貰った」
「どういうこと?」
「別に何でもねぇよ、気にすんな! じゃ、資料探しに行ってくる」
「いや、何でもなくないでしょ……ってもう居ないし」

 意味が分からない。もう貰ったってどういうことなんだろうか。ギルベルトに対して何かした記憶は得に無い。強いて言うなら叩いたり殴ったりした覚えならある。

「……レポートやろう。ギルに手伝って貰ったのに終わらなかったなんてことにしたくないし」

 本人に聞かない限り分からないだろうと考えることを投げ出し、レポートの続きに取り掛かる。いつも早くから始めようと思って、気付いたら締切1週間になっているのだ。その度に、ついギルベルトを頼ってしまう。

「フランシスでもアントーニョでもなく、ギルベルトを呼び出す理由、気付いてないんだろうなぁ」


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