「……なんで居るの」
「それは勿論、毎日家に引きこもっている君を外に連れ出す為さ」
「そうじゃなくて、鍵は?」
「俺に掛かれば、合鍵なんて直ぐ手に入るよ」
気付けばさも当然のような顔をして部屋に臨也が居た。不法侵入だと訴えたところで、むしろ目の前の男を喜ばせるだけだろう。こちらが構えば構う程、あちらのペースに巻き込まれていくのだから。
「あ、そう」
「冷たいなぁ……俺は君の為を思って、こうして足を運んで来ているのに」
「頼んでない、余計な」
「『お世話だ』って言われても来るけど、君に会いたいし。だって俺はを愛してるからね」
芝居掛かった口調で告げられる言葉。それは、飽きることなく今までにも度々繰り返されていた。それは、信じるに値せず音としての意味しか持たなかった。
「臨也が愛してるのは人間でしょ」
「その通り。でも、人間の中でも君は特別だよ」
「戯言は結構。何度も言ってるけど、私は――」
「『人間が嫌い』」
彼が愛しているという存在が嫌い。だから外に出ようとしない。外には、嫌いな存在である人間が溢れているから。
「そう、君は人間が嫌いだ。俺とは正反対。当然、君が好きになる人間は、俺が嫌いな相手。例えば、シズちゃんとかね」
「別に、静雄だけじゃない」
「知ってるよ。でも、君がその好意を相手に告げることはない。だって」
「煩いよ臨也」
「分かっていることを言われたくないって?理解することと認めることは別だよ。俺は良い加減、君に認めさせてあげたいから敢えて言うんだ」
「煩い……」
「だって、君が好きになるのは化物と認めた相手だけだからね」
「煩いって言ってるでしょ……っ!!」
見て見ぬ振りをしている事柄を、突き付けられることに耐えられなかった。人間が嫌いな自分が好きになれるのは、人間以外の存在だけ。好意を告げることは、相手に異形だと告げるのと同じことだ。
「シズちゃん、セルティ、杏里ちゃん。あと、聖辺ルリもかな。ねぇ、彼等は化物だから好きだと告げられたらどうするかな?それを受け入れるか、拒絶するか。とは言っても、結果は見えてるようなもんだよね」
「だから私は……」
「傷付けたくない、嫌われたくないから、全てを抱えて独りで生きるって?」
「そうよ。人が嫌い。その時点で、誰かと生きていくなんて無理だって分かってた。それに、相手を傷付けてしまうような好意なんて無い方が良い」
自分のような存在がそんな幸せを得られる筈など無い。誰とも関わらず、これからもこうして閉じこもって生きるべき、いっそ消えてしまえば良い存在なのだ。考えるべくもない、ずっと前から、それこそ生まれた瞬間からの決定事項。
「あはははは。そうだよね、君にはその選択肢しかない。何よりも、自分が一番嫌いな君には」
「臨也には、絶対分からない……」
「分からないよ。自分が嫌い、人間が嫌い。それでも誰かと関わることを望む、そんな矛盾を抱えているんだから」
一つ認めてしまえば、後は済し崩しだった。臨也は、ただひたすらに事実を突き付けてくる。今まで眼を反らしていた、私の本性を。
「でも、分からないからこそ、矛盾を抱えているからこそ、君という存在を俺は愛している」
「私は臨也が嫌い」
「人間だからね。俺は人間だから、を愛しているけど。君が人間を嫌っている限り、この感情は決して交わることが無い平行線だ」
酷く愉しそうな笑みを臨也は浮かべている。どうして、そんなにも愉しそうなのか。彼が私を分からないと言うように、私は彼が分からない。正反対の存在の思考など、分かる筈も無いのだ。
「けど、君は誰かと関わることを望んでいる。君のその本性を知った上で、愛していると告げる俺は、正に打って付けの相手だろう」
「何が……言いたいの」
「君の矛盾に答えが出るその時まで、俺が君を愛してあげる」
「それは、答えが出たら興味を無くすってこと?」
「そうだね。でも、君が答えを出すことは無い。いや、出来ないだろう。そして俺は、君がそうやって矛盾を抱えて苦悩する姿を見ていたい」
人間の悪意を詰め込んだような歪んだ人格。全ては自分の嗜好を満たす為。それが――折原臨也という人間。
「ねぇ、。俺が君を、君が一番嫌いなという存在を、ずっと愛してあげるよ。だから君は、安心して自分を含めた全ての人間を嫌うと良い」
ずっと、ずっとね。
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