「彼女が幸せならそれで良い。なんて考えは偽善だとは思いませんか?」
「さぁな」
「偽善でも良いんですけどね。その笑顔の先には俺がいなくても、彼女が笑っている、その事実こそが重要なんです」
池袋サンシャイン通り。最も人通りが多いその通りから、少し外れた道で二人の人物が会話をしている。いや、およそ会話と呼ぶには相応しくないのだろう。一人が一方的に話し、それに対してもう一人が適当に相槌を打つだけ。そのように述べるだけでは普通であるように思われるが、現実においてその光景は一言で言うと『異様』であった。話している少年は来羅の制服を着ている、学生だろう。それに対し、相槌を打っている青年はバーテン服を着ている。この池袋において知らない人間は居ないと言われる程の人物。そんな彼と、どうして普通の少年が会話をしているのか。それは、一重に話題が共通の友人についてだったからである。
「好きな人には笑っていて欲しい。ごく普通の考えですよね。だから俺はセルティが笑っていられるなら、その隣に居るのは別の人でも良いんですよ」
「新羅の奴のことは」
「新羅さんですか? それはまぁ勿論、嫉妬しないと言えば嘘になりますが、今のセルティの笑顔があるのは彼のお陰ですからね。それにセルティが彼を好きだから、俺も好きですよ」
「代わりたいとか、思わねぇのか」
「彼より先に出会っていたら、もしかしたら俺があそこに居れたのか。と思ったことが無いとは言いませんが、其処に居るのは今のセルティとは違う存在でしょう。別に、俺はどんなセルティでも好きです。矢霧誠二君のように首だけ愛するのでもなく、新羅さんのように身体を愛するのでもない。その両方をセルティとして愛してますからね。だから、首と身体が出会って一つになった彼女がこれまでの記憶を失ったとしても、俺は好きですよ。……っと何だか話が逸れてますね、済みません」
「いや、お前がセルティのことをどれだけ好きかは分かったし。友人として、あいつがこれだけ思われてるのは、嬉しい」
「そうですか、静雄さんは良い人ですね」
「俺が?」
「えぇ。セルティには素敵な友人が多いですよね。俺もその一人だと良いな」
「そうなんじゃねぇの」
「あわよくば恋人になりたいと思いますが。それはいつか機会があるでしょう。新羅さんが亡くなった後とかに」
「お前……」
「あぁ、誤解しないで下さいね。俺は新羅さんを殺そうだなんて全く考えてないです。ただ、俺は人より少し長生きなだけなんですよ。静雄さんに本気で殴られたら普通に死にますし。俺は完全じゃないんで」
意味があるようで中身の無い会話を続けていると、遠くからあの独特の音が近付いてきた。
黒いバイクを走らせる、デュラハン。彼の、想い人。
『なんだ、珍しい組み合わせだな』
「偶々会ったところを、俺が引き止めて話に付き合って貰ってたんだよ。ね、セルティ。静雄さんって良い人だよね」
『そう言ってくれると自分のことじゃないけど嬉しいな。静雄は誤解されやすいから』
「二人して似たようなこと言うね」
「微妙に違うだろ」
デュラハンの想いが少年に向くことは無いだろう。それは、今の彼女をつなぎ止める岸谷新羅という人物が死んだとしても変わらない。彼女は、彼への想いを抱えて故郷へと帰るだろう。それでも、一抹の期待を掛けたい。いつか、何百年先となっても、彼のことを忘れて少年へとその想いを向けてくれることを。少年には、時間だけはあるから。それを待つことなど、いとも容易いことだから。そんな『いつか』に希望をかけて、少年は今日も彼女を思う。自分ではない人の隣で生み出される、その幸せを喜びながら。
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