pride or freedom

「クラウドがアバランチに?」
「元ソルジャークラス1STって名乗ってるらしいぞ、と」
「覚えてないの?」
「さぁな」

 溜息を吐いて椅子の背もたれに寄り掛かると程よい硬さのクッションに包まれる。デスクワークの少ない職場であるが、会社での地位は高い為、備品はそれ相応のものが使われているからだ。総務部調査課、通称タークス。社内でのエリートが所属すると言われているが、実際の所は表立って処理出来ない事柄を扱う新羅カンパニーの裏の顔を担っている部署に過ぎない。タークスに感情は要らない、与えられた任務をただ完遂すれば良い。数年前までの自分は、それを分かっていた筈だった。

「分かってると思うが、いくらお前でも二度目はないぞ、と」
「分かってる。脱走時に自宅待機だったのはツォンさんなりの優しさだってこともね」
「それなら迷うな、お前はタークスだろ?」
「頭では分かってても、どうにもならないことってあるでしょ?」
「その代償が片目で済むなら、安いもんだって?莫迦言うなよ、と」
「安くは無かったけど、後悔はしてないよ。またあの場面に会ったら、きっと同じことをする」
「……俺は、もう一度お前に銃を向けるのはごめんだ」
「良く言うよ、一番最初に構えたくせに」
「被害を最小限に抑える為だぞ、と。お前の怪我も含めてな」
「うん、ありがと」

 4年前、セフィロスが起こしたニブルヘイム事件。その事後処理において、サンプルとして回収されたザックスとクラウドを守る為に、私は神羅に牙を向いた。一般兵ならまだしも、あそこにはタークスが全員揃っていた。勝算が低いことは理解していたが、それでも、友人を見捨てることが出来なかった。タークスの心得とか、そんなことよりも大事なものがあるのだと、あの時に気付いた。当然ながら、命令に背いた私は処罰を受けた。正直言って、殺されなかったことは今でも不思議なくらいだ。その時に左眼を失明した。現在では、片目での生活にも慣れたから不自由はしていないし、他の怪我については跡も薄くあるだけだ。残っているのは、悔恨だけ。眼の前に居た友を救えなかった、自分の不甲斐なさへの。それでも、未だに会社を辞められずにいる。彼達の人生を、自由を奪った元凶であるにも関わらず。

「レノ、誇りって何だろう」
「俺が知るかよ、と。お前はどうなんだ?」
「……分からなくなった。前は、周りに何て言われようとも、この仕事に誇りを持ってた。ううん、今でも持ってる。だから辞められないのかもしれない」
「タークスを辞めることは死を意味する。辞めることは出来ないぞ、と」
「死ぬ覚悟があったら辞められるかな」
「止めとけ、命あっての物種だろ。それとも、命よりも大事なのか?」
「分かんない」

 彼は命よりも、自由が欲しいと言っていた。心臓が動いていても、実験サンプルなんて扱いは嫌だ。それは死んでいるのと代わりがないと。いつだって誇りを胸に抱いていた彼はもう居ない。その彼が全てを託した相手を、私は撃てるんだろうか。私の『誇り』は、彼の『自由』を奪うに値するんだろうか。迷っている。けれども、きっと心の中では既に答えは出ているのだろう。だからこんなことを口にしようとしている。

「あのさ、お願いがあるんだけど」
「内容によるぞ、と」
「一生に一度のお願いだから、出来れば聞いて欲しい」
「随分と大袈裟だな。こんなところで使っちまって良いのか?」
「レノにお願い事するなんて、これっきりしか無いだろうからね」
「そうかよ。それで、お願いってのは?」

 これはきっとお願いじゃなくて我侭なのだと思う。一方的に自分の要求を押し通すだけのもの。それでも、本気だったから、その気持ちを伝える為に、しっかりとレノの眼を見て告げた。

「もし……もしも私がまた神羅を裏切ることがあったら、その時は迷わず殺して」
「仮定の話は好きじゃないな」
「聞いて。多分、その時は私の中で答えが出てしまってるから。生きていても、意味が無いから」
「……好きな女の頼みなら何でも聞いてやりたいが、それはお断りだぞ、と」
「それでも、お願い。レノにしか頼めない、レノに……頼みたい」
「二度目が無いのは俺も同じだ、お前を撃つなんて無理だ」

 酷いことを言っている。レノが、私に好意を向けてくれていることを分かっていて頼んでいるのだから。出来るなら、同じ道を歩みたかった。歩けると思っていた。けれども、それはもう叶わない。ザックスのことを想うと、その道は選べない。4年前に、私は道を違えてしまったのだと思う。この道は、もう交わることは無いだろうから。

――だからせめて、私が捨ててしまう称号を掲げて、貴方の手で終わらせて欲しい

「レノなら殺してくれるって信じてるよ。タークスだから、ね」


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