きっかけはどうとういうことはない、共通の趣味で知り合った、喋りさえしなければ大変可愛らしいお人形さんのような雪岡さんこと小鞠ちゃんとイケメン観察に興じていた時のことだった。イケメンが居た。私の好みのど真ん中ストレートを貫くタイプのイケメンが居た。具体的に言うと、身長はそんなに高くなくてむしろ高校生男子の平均からすると低いくらいの線の細い感じのイケメンだった。その場で即座に小鞠ちゃんに伝えると思いっきり引かれた、ひどい。彼女は高身長でそれなりに筋肉がついたタイプのイケメンが好きらしいので、あれはないと言われた。でも華房くんはそういう括りを超越したイケメンらしい、良く分からない。とことん私と彼女の好みはずれている。それでも生徒会の一人だということを親切にも小鞠ちゃんが教えてくれたので、私はそのまま生徒会室にお邪魔して華房くんに根掘り葉掘り彼のことを聞いた。北条さんから終始凄く不審そうな視線を向けられたが、恋する乙女の前ではその程度のことは障害にもならない、が、大した理由もなく生徒会室にお邪魔したことについてはきちんと謝罪した上で退室をした。人間関係を円滑に進めるのは感謝と謝罪の気持ちだと思う。
突撃生徒会室訪問の結果として、私は彼の名前と誕生日とクラスと好きな食べ物とか諸々知ることが出来た、ぶっちゃけ全部個人情報なのだけれども大丈夫なのだろうか。でも、私にしてみれば華房くん様様なので、後でもう一度生徒会室の方を拝んでおくことする。ただその中で問題があったとすれば、華房くん情報の中に含まれていた彼の好みのタイプが「頼ってくれる人。家事が苦手な人」だったということだ。断じて自慢ではないのだけれども、家事は苦手な方ではない。世間一般的に見ればそこそこは出来る方だと思う。あと、割と自分で何でも出来てしまうタイプだと思っている。つまり、見事に彼の好みタイプから外れていた。これは由々しき事態だ。アピールポイントが全く見当たらないのであれば、接触の糸口が掴めない。加えて学年が違うというのも大きな壁の一つと言える。たまたま廊下で遭遇とかもしない、何故なら階が違う。小鞠ちゃんは3組だし、2組に知っている人と言えば北条さんくらいしか居ないけれども、あれは知り合いというレベルにすら達していないと思うので、流石に頼み事とかはちょっと図々しいような気もする。華房くんにもそうしたことをちらっと相談してみたら「細かいことは気にしないで普段通りで居たらいいんじゃないの?」というお言葉を貰った。あの華房くんに恋愛相談とか恐れ多いことをしたものだと思うと同時に、彼が普通にアドバイスをくれたということにもびっくりだ。クラスの中でも敬遠されがちだけど、彼はちょっと変わっているだけの良い人だと思う。
そんなことに頭を悩ませながら歩いていたら転んだ。躓くようなものが落ちていたわけではなく、足を縺れさせたというわけでもない。が、転んだ。何とか顔面ダイブだけは避けたけれども、床に思いっきり擦った膝はずきずきと痛みを訴えている。はてさてどうしたものか廊下に座り込んで今後の行動について考えていると、すっと横に人影が差した。
「立てへんの?」
「いや、そこまでではないかな。血が出てないのは分かってるんだけど、地味に痛いというくらいで」
「ふーん……確かに血は出とらへんな。けど、早う冷やさんと痣になるで」
「それはどうもご丁寧に。でも、痣の一つや二つ増えたところであんまり気にならないわけで」
「つまり何が言いたいねん?」
「保健室行くのが面倒」
「大した距離やあらへんやろ」
「問題は距離じゃないんだよ、保健室利用ノート? みたいなのに名前と症状とか一々書かないといけないの、面倒でしょう?」
「自分、相当物臭なんやな」
「そんなことはないよ、たぶん」
そこまで話すと差していた影はなくなったから、その人は何処かへ行ってしまったようだ。私の答えに呆れて立ち去ったにしても、結局何がしたかったのか良く分からない。手を貸してもらうような怪我ではなかったけれども、そのつもりがないのならば放っておいてくれれば良かったものを。何にせよ、自分で立てるのだからいつまでもここに座っていても仕方がないと立ち上がろうとしたら、ぐっと肩を掴まれてその動作を抑え込まれた。
「そのまま座っとき」
「はい?」
「立たれるとやりづらいやろ」
声はさっきと同じもので、何を言っているんだこいつはとか、そもそも何しに戻ってきたんだとか、関西弁珍しいなぁとかそんなことに思いを馳せていると、ひんやりとした冷たいものが膝に当てられた。床に擦って熱を持っていた部分が冷やされていくのに心地良さを感じつつそれを確認すると、水で濡らしたハンカチが当てられている。なるほど、これを用意するために一度居なくなったのかと納得をしつつ、見ず知らずの相手のためにわざわざここまでしてくれるとはなんて良い人だ、さっきは勝手なことを思って申し訳なかったと心の中で私は謝罪をした。そして、とりあえずこの親切な人の顔を確認しておこうとそれまで伏せていた顔を上げたところで、私は見事に固まることになった。こうして私はその日二度目となる恋に落ちた。
Back