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「ただいまー」
「……何、その格好」

帰ってきた声がしたから、玄関を覗いたら雨でずぶ濡れになった彼女が立っていた。

「えと、その、ね?」
「傘持ってたよね。どうして濡れてるわけ?」
「うん、傘はあったんだけど……」
「はぁ、ちょっと待ってて」

彼女は濡れてる理由を中々話そうとしない。 このままの状態では風邪を引きかねない、新型インフルエンザなんてものが流行っている今、そんなことになったら困る。 そう思って、俺は先にタオルを取ってくることにする。 戻ってくると、濡れてしまった靴下を脱いで室内へと上がったところだった。

「それはそのままでいいから、こっち来て」

ぺたぺたと足音を立てて、こちらに来た彼女に頭からタオルを被せる。 そして、そのまま濡れた髪を拭いてやる。

「うわ……佳主馬、自分で出来るって」
「いいから。それで、何でこんなことになってるの?」

髪を拭いているから、自然と彼女の顔は俯きがちになる。 どんな表情をしているかは分からない。

「……笑わないでね?」
「笑わないから話して」
「雷が怖かったの」

彼女の口から零れたのは、予想外の言葉だった。
だって

「雷なんて怖くないんじゃなかった?」
「室内に居る分には良いんだけど、外だと怖いの」
「それを怖がってるって言うんじゃないの」
「違うよ。あの音が怖いとかじゃなくて、雷で死ぬのが怖いんだもん!」

顔を上げて、普通に怖がってるのとは違うと否定してくる。 言いたいことは分かるけど、怖いことには変わりないと思う。 それに雷で死ぬって言ってもさ。

「雷に打たれて死ぬ確率なんて、8万分の1だよ? そんなの怖がってどうするの」
「だって、この間読んだ本で傘さしてた人が雷で死ぬシーンがあったから」
「フィクションの話でしょ。それに雷は電柱とか木とか、より高いものに落ちるから、人に当たることなんて滅多に無いって」
「それでも、今日は割と近い所で音が聞こえてたし、落ちたらと思うと怖くて傘させなかったの!」

それが理由か。 雷が落ちるのが怖くて、傘がさせないなんて人間が居るとは思わなかった。 実際に眼の前に居るけど。

「雷が怖くて傘もさせないなら、今度から迎えに行くから連絡してよ」
「駄目! それでもしも佳主馬が死んじゃったりしたら嫌だし」
「俺はそんな起こり得ないことの為に、ずぶ濡れになって帰って来られる方が嫌」
「う……」
「連絡してよ、分かった?」
「分かりましたー」

これから雷が鳴る度に濡れて帰って来られたらこっちが堪らないから。 顔を寄せて言い聞かせると、渋々ながらに彼女は頷いた。 そのことに満足して、髪を拭いていた手を止める。 彼女の体が濡れているとか、それで自分の服も濡れるなんてことは一切気にせず、そのまま抱き締めた。

「おかえり」

あんな状態で帰って来たから、凄く心配した。
吐き出した本音は雫のように零れ落ちる。

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