7月7日。今日は七夕です。
「笹の葉 さ~らさら 軒端にゆれる~お~ほしさま き~らきら き~んぎ~ん 砂子」
「音痴のくせに、何歌ってやがる」
気持ち良く歌っていたら、バクラに遮られた。
「七夕の歌だよ。知らないの?」
音痴であることは自覚してるからスルー。
「七夕ぁ? 何だよ、それは」
「そっか、バクラは三千年前の、しかもエジプトの人だから知らないのか」
これで中国なら知ってたかもしれないけど、エジプトじゃあね。
「よし、じゃあさんが説明してあげよう!」
「全力で遠慮させてもらうぜ」
「まぁまぁ、そう言わずに、ね」
バクラの主張を聞かなかったことにして説明を始める。
「織姫と彦星っていうカップルが居て、あまりにラブラブで仕事しないから、神様が怒って二人を天の川の両岸に分けちゃったわけ。それで二人は親切な鵲さんのおかげで、年に一度、7月7日だけ会うことが出来るという伝説があるんだよ」
説明が終わってバクラの方を見たら、何故か眉間に皺を寄せている。
「……何か違ぇだろ、それ。オレでも分かるぜ」
「大体合ってるから良いでしょ。分かりやすく噛み砕いたんだからさ」
「噛み砕き過ぎだろうが」
「そうかな? ま、そういうことで、今日は出会えて満足な織姫と彦星が、皆の願いを叶えてくれるんだよ」
だから笹に願いを書いた短冊を吊るすの。
「けど、お前はそんなこと信じちゃいねぇんだろ?」
「そんなことないよ。何でそう思うの?」
「はっ、笹も短冊も用意しちゃいねぇし、第一、てめぇはそんなもんに頼るような奴じゃねぇだろうが」
分かり切ったこと聞いてんじゃねぇよ、という顔で言われた。
うーん、自分のことを分かっていてくれるというのは、意外と嬉しいものなのかもしれない。
ちょっと頬が緩んだ気がした。
「全く以ってバクラの言う通りだよ。私は織姫と彦星なんていうバカップルに頼る気なんか無い」
「バカップルは言い過ぎじゃねぇか?」
「言葉の綾だよ、綾。それに願いってのは他人に叶えて貰うものじゃないでしょ」
願い――それは一心に求めること。
願望、願意、願行。
人は誰しも願いを持つ。
「願いっていうのはさ、自分で努力して叶えるものじゃない? 私はそう思うな」
他力本願なんて嫌。
「それこそ、お前らしいってもんだろ」
人によっては私の、この少し達観したところが嫌いって人も居る。
でも、バクラはそこが良いって言ってくれたからね。
「。もし、お前がどんなに努力しても叶わない願いがあったら、オレに言え」
「なんで?」
「その時は、オレ様が叶えてやるぜ」
あぁ、本当に、何だってこの人はこんなにも優しいんだろうか。
叶えて欲しい願いがあるのは、自分の方なのに。
織姫と彦星、織女と牽牛でも何でも良いから。
幸せいっぱいで他人の願いを叶えるほど暇なら、今だけは私の願いも叶えて欲しい。
他力本願なんて柄でも無いし、神頼みなんて柄でも無いけど。
時を止めてなんて大それたことは言わないから。
もう少しだけ時を延ばして欲しい。
宿命の過去の再現が始まるその時まで。
ほんの少しでも良いから時間を。
一年に一度しか会うことの出来ない貴方達なら少しは分かるよね。
永遠に、永久に、未来永劫、会うことの出来なくなる哀しみを。
だから、もう少しだけ時間を下さい。
私には彼の願いを叶えることは出来ないけど。
私に出来る精一杯のことを彼にしてあげたいから。
彼の幸せの為に、私の我儘の為に。
どうかこの願いを叶えて下さい。
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