君の声だけは

「最近調子はどう?」
「んー普通だな」
「決闘するの楽しい?」
「まぁな」

今日は久々に京介が家に居るというから来てみた。 ここ数週間は毎日遊星達と出掛けていたから。 家でまったりしながら話したいと思っていたのに。 京介はさっきからずっとデッキ調整をしている。 私が来た時には少し顔を上げたけど、それだけ。 声を掛けても適当な返事が返ってくるばかり。

「遊星の髪型って蟹に似てるよね」
「そうだな……」
「ジャックってモデル並にスタイル良いよね」
「そうだな……」
「クロウって可愛いよね」
「そうだな……」
「鬼柳ってきゅうりと間違えそうだよね」
「そうだな……」
「……暇なんだけど?」
「そうだな……」

そんなにデッキいじるのが楽しいですか。 サテライト統一が京介の目標であるのが分かっている。 その為にはデッキ調整が欠かせないことも分かってはいるけど。 久しぶりに二人で会ったのだから、正直に言えば今日くらいは決闘のことを忘れて欲しい。

「チーム・サティスファクションってつまり満足組だよね」
「そうだな……」
「ぶっちゃけあの衣装は無いと思う」
「そうだな……」
「この満介め」
「そうだな……」

ここまで話を聞いてないといっそ清々しい。 連帯保証人とか頼んでも、こいつは肯定するんじゃないだろうか、という気すらしてくる。
こんな状態の京介と一緒に居ても暇なだけだ。 暇だけど、一緒に居たいと思うのは矛盾してると自分でも思う。 私もデッキ調整を始めてやろうかとも思ったけど、生憎カードが無い。 直ぐ隣に、こんなに近くに居るのに京介の眼は私を捕えることはない。 それが、少し寂しい……。

「ねぇ、京介」
「んー……」
「京介忙しいみたいだし、私クロウのとこにでも行くね」

当然同じように適当な返事が返ってくると思っていた。 そしたら、本当にクロウの所に行くつもりだった。 だから、立ち上がったのに――

「それは駄目だ」

聞こえてきた声と一緒に、後ろへと引き寄せられた。 脳が現状についていかない。 立ち上がったと同時に、また座らせられて。 背中に伝わる暖かい感触と、お腹に回された腕。

「え、ちょ、京介!? 私の話聞いてなかったんじゃないの!?」
「は? 俺がの話聞いてないわけないだろ」

声が耳の直ぐ側から聞こえて、思わずびくりとしてしまう。 今の私は京介の膝の上に座らされ、背後から抱き締められている。

「……もしかして、全部?」
「蟹とかきゅうりとか満介とか全部ばっちり聞いてたぜ?」

は、謀られたっ!!

「まぁ隣に居てくれたら何言っても、後でいじる(め)つもりだったから良かったんだ」

何か今小さく余計な一文字が聞こえたんですが。

「だが、流石にクロウんとこに行くとなりゃ、俺も黙ってるわけにはいかねぇ」

回された腕の力が、微かに増した気がした。

「なに、クロウにやきもち?」
「やきもちっていうか……独占欲?」

耳元で囁かれるように言われて、顔に熱が集まる。 そうだったら良いな、と思って言ったのに対して返ってきたのは予想外の破壊力を持っていて。

「ば、か…じゃないの?」

短く呟くのが精一杯だった。

「知ってる」

京介の声が嬉しそうなのは、私が赤くなっているのが分かっているからだろう。 適わないな、とこういう時に思う。 私がどんなに頑張っても、たった一言で京介はそれをいとも容易く越えてみせる。 それでも、ささやかな抵抗をしたいわけで。

「もうクロウのとこ行かないから、離してよ」

自分を拘束する腕から逃れようとする。 勿論そんなことをしても、そこは男女の力の差。どうやっても無理だったりするのだが。 むしろ更に強く抱き締められ、抜け出すことがより不可能になる。

「それは出来ねぇな。だって誰かさんが俺に構って欲しかったみたいだからな」
「べ、別に構ってなんか…!」
「欲しくなかったって?」
「……なくもない、かもしれない」

二重否定、その意味は――

「お前って本当素直じゃないよな」
「うるさいっ!!」
「そういうとこが可愛いけど」
「……っ」

心臓が早鐘を打っている。 触れ合っている部分から京介に伝わってしまうんじゃないかって位に。

「さて、は構って欲しいんだったな」

次の瞬間、首筋にちくりとした痛みが走る。

「っん、ま、何する気!?」
「そう暴れんなよ」
「これが暴れずにいられるか!」
「満足させてやるぜ?」

何時の間にやら向かい合う状態にさせられていて、酷く楽しそうな顔をした京介の顔が眼に入った。

「……京介の、ばか」

今日初めてお互いの視線を絡めると、そのまま視界に暗幕を下ろした。


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