気が向いたのでチョコレートブラウニーを作ることにした。
個人的には和菓子派であり、平素からの斜めに構えた性質により他者と違ったことを好む為、自分で作る際も和菓子が多い。
クッキーとかはまず作らない、天敵だ。
そんな私が洋菓子であるブラウニーを作るのは、正に「気が向いたから」としか言いようがない。
「楽しみだなぁ、チョコレートブラウニー」
だから断じて、うきうきと期待に満ちた声をかけてくる、獏良了とかいう奴の為に作るわけではない。
別に彼にせがまれたわけではなく、あくまで私の自主性の産物だ。
「何度も言うようだけど、作ったことないし、失敗しても知らないから」
「えー君が本見ながら作ったなら、失敗するわけないって僕知ってるよ?」
「……あっそ」
不意打ちで変なことを言わないで欲しい。
そんな何処から生じるのか分からないような信頼をぶつけられるほどの関係を築いた覚えはないのに。
そこまで信頼されてしまったら、頑張って美味しいものを作るしかないじゃないか。
あぁ、こんな風に思ってしまうことも、きっと彼の思惑通りに違いない。
振り回されることを腹立たしく思いながら、混ぜ合わせた生地を型に流して余熱済みのオーブンへと入れる。
焼き上がればそれで完成だが、そのままでは工夫にかける。
洋菓子を作ったとしても、他者と代わり映えのしないものを作りたくない、という性質に変わりはなく、仕上げのトッピングにミルクキャラメルを溶かす。
「それってキャラメル?」
「そうだけど……って、近っ!」
キャラメルの溶け具合から、そろそろ上げようかな、と思ってたいたら何時の間にか接近した獏良が直ぐ後ろに居た。
「ふーん、チョコレートとキャラメルって合わさるとちょっと甘さ的にしつこそうだけど」
「ブラウニーの方は甘さ控えめだから丁度良いはず……じゃなくてだから近いから!離れてよ、気が散るじゃん」
「あとちょっとで完成でしょ? 良い匂いがして、待ち切れないんだもん」
「あとちょっとで完成なんだから、大人しく待っててよ!」
密着する位の距離から鍋を覗き込んでくる獏良を追い払おうとして振るった手が、運悪く掻き混ぜていたへらに直撃する。
「あっ…ぶなぁ……」
幸い火は既に止めていた為、惨事にはならなかった。
零れたのも少量であり、手にもかかったが火傷する程の熱さでもない。
「べたべたする……」
「キャラメルだからねー」
そう言って、何故か獏良は洗い流そうとしていた私の手を取る。
「獏良?」
「流しちゃうなんて勿体ないでしょ?」
言うや否や、こちらが抵抗する間もなく、私の指をそのまま口に含む。
「ちょ、待て、齧るな、……舐めるなー!」
抵抗するも虚しく、獏良は気が済むまで私の手に付いたキャラメルを堪能する。
解放された頃には、私の手から見事にキャラメルは無くなっていた。
「うん、僕としては今ので満足。ブラウニーも美味しだろうけど、今のキャラメルには勝てないかな」
「……この変態め! セクハラで訴えてやるっ!!」
「やだなぁ、君に対してだけだよ」
「なお悪いわっ!!!」
【ちょ、待て、齧るな、……舐めるなー!】
(頼まれたってもう二度と作らないから!)
(そう言いつつも、また作ってくれるんだよね?)
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