拍手log

『思い出作りをしよう』
突然そんなことを言い出したかと思うと、あれよあれよという内に週末に花火をすることが決まった。

「夏と言えば花火でしょ」
「そういうものなのか?」
「だって城之内達見てみなよ、あんなに楽しそうじゃない」

指で示した先には、ねずみ花火に火を付ける城之内から逃げる本田と、その様子を線香花火をしながら呆れたように眺める杏子と獏良が居た。 更に少し離れたところで、ロケット花火のセットをしている御伽。 それでも、皆が花火を楽しんでいることは確かに伝わってくる。

「アテムは、楽しくない?」
「勿論楽しいぜ! だが、相棒も一緒に楽しめたら良かったなと思うんだ」

二心同体の彼等は、どうあっても共に楽しむことは出来ない。 互いに見ることも会話をすることも出来るが、触れ合うことは出来ない。

「遊戯は何て言ってる?」
「『僕はもう十分楽しんだから、気にしなくて良いよ』と。相棒らしいな」
「出来るなら、皆で思い出作りたかったんだけどね……」
「そうだ、どうして突然思い出作りなんて言い出したんだ?」

夏休みはどうするか、その予定を話していた筈だったのに、気付いたらこんなことになっていた。 まだ夏休みではなく、試験休み期間だと言うのに。

「うん……忘れないように、何か記憶に残ることをしたかった。のかな?」
「……気付いてたのか」
「何となく、ね。来年の夏は無いんだろうな、て気付いたら居てもたっても居られなくて。ちょっと強引だったかなとは思う」

恐らく、皆も気付いていたから賛同してくれたのだろう。 アテムは、この夏の間に還る。彼のあるべき場所に。

「いっそ、俺のことなんか忘れた方が幸せなんじゃないか、と思ったことがある」
「まさか。自分だけ覚えてるのに、皆に忘れられることほど悲しいことはないよ? それに、アテムは今までもそうだったんだから」

名も無きファラオの魂。 歴史上に彼についての記述は無く、残されていたのは友への詩が刻まれた石版のみ。 そんな彼が、これ以上誰かに忘れられるなんてことがあって良い筈が無い。 それが掛け替えの無い友であるならば尚更。

「あのね、私は自信が無かったんだと思う。貴方のことをこれからも忘れずにいることに」
「辛いなら、忘れても良いんだぜ」
「違う、忘れたくは無いの。でも、人間は忘れていくイキモノだもの。私の意思に反して貴方のことが零れ落ちていってしまうのが怖かった」

生きている限り、人は常に新しいことを記憶していく。 そうして上書きされていく内に、大事なことを忘れてしまいそうで。 だから、決して忘れないように、忘れたくても忘れられないような思い出を作ろうと思った。

「もう大丈夫、今日のことは忘れないよ。これから先、何があっても」
「ありがとう。俺も、俺の魂が何処へ行こうとも、皆のことは忘れない」

貴方と過ごした時間は、全て胸に刻み込むから。 思い出じゃない、いつまでも色褪せない記憶として。


【人間は忘れていくイキモノだもの】

(還る貴方を笑顔で送るよ)
(だから、私の笑顔を覚えていて)


Back