壁一面を切り抜く形で設計された窓からはハートランドシティを一望出来る。
取り立てて何か思うところがあるような景色でもなく、ただ何となく眺めていただけだった。
ふっと窓に写る私の姿に重なるように影が差す。
「何を見ているんですか?」
「別に。なんでこんなありふれた町でWDCをやるのかなって」
「ハートランド氏が市長を務める町ですからね、何かと都合が良いのでしょう」
背後に立ったⅣがにっこりと笑顔を浮かべているのが分かる。
その張り付いた笑顔なんて見たくもなくて、私は「そう」とだけ答えると視線を眼下の光景に固定した。
本来のⅣを知っている者にとって、紳士ぶっている彼は気持ち悪いだけだ。
丁寧な口調と物腰の裏で嘲笑っているくらいなら、いっそ全て表に出して貰った方が良いとさえ思う。
かと言って、常にⅣの暴言に晒されていたいわけではない。
ただ、そちらの方がまだマシというだけだ。
そんなことを考えていると、顔の横にⅣの手があった。
いつの間にか窓とⅣの身体に挟まれる形になっていることに気付き、思わず溜息を吐きたくなったのをぐっと堪える。
「どうかしましたか?」
「どうもこうも、分かってるくせに」
「さて、僕には何のことだか。口に出して言って貰わなくては分かりませんよ」
あぁ、苛々する。
私が嫌がるのを知っていて、偽りの仮面で話し掛けてくるということが。
そして何よりも、こうやって苛々していることすらⅣの思い通りであるということが。
分かっていても感情を制御することが出来ず、いつもⅣに踊らされてしまう。
だから、彼を悦ばせるだけだと分かっていながらも口にせずにはいられない。
「何度も言ってるでしょ、私の前でその口調は止めて。紳士なⅣなんて気持ち悪いだけなんだから」
「これでもファンからは『Ⅳほど紳士的な決闘者は居ない』と言われてるんですよ」
「全部そうやってアンタに憧れてるファンを地獄に突き落とす為の演技に過ぎないくせに」
「酷いですね、僕なりのファンサービスだと言うのに」
「私はアンタのファンじゃない、だからサービスなんて要らない」
ふっと漏らされた笑いと共に零れた吐息が耳に掛かる。
そのことで、背後のⅣが身体を屈めて顔を耳元に寄せていると分かった。
「そうですね。貴女は僕のファンではなくて…………俺の彼女だからな」
「不本意ながらね」
「良く言うぜ、俺のことが好きで堪らないくせに」
耳から注がれる言葉は脳髄に直接響くかのようで、くらくらする。
「大好きな俺からファンと同じように作った態度で接されるのが嫌なんだろ」
「誰がそんなこと……」
「思ってるだろ? お前が嫌そうな顔をする度に俺は満たされる…………だからやめらんねぇよなぁ」
「ほんと、性格歪んでるね。ⅤさんとⅢくんとは大違い。アンタ、実は二人と血繋がってないんじゃないの?」
「酷いこと言ってくれるな。だが、お前だって俺が外面通りの性格だったら関心を持たなかったはずだ」
「微塵も興味無かったでしょうね」
「なら、俺の性格についてお前にどうこう言われる謂れはねぇよな。お前は『この』俺が好きなんだから」
そう、非常に悔しいことではあるけれど、結局のところ、私はこの裏表あるⅣが嫌いではないのだ。
今だって、彼を押し退けてこの場から立ち去ることは難しくもなんとも無いのに私はそれをしようとはしない。
どうしてこんな奴を好きになってしまったのか。という自問自答を繰り返しつつも、未だに彼から離れていないのも、そういうことなのだろう。
髪に優しく触れるⅣの手つきを感じながら、やっぱり彼が好きだと私は何度目かの確認をする。
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