血の繋がりは無くとも

 今朝から子ども達の様子がおかしい。 二人で何か話していると思ったら、少しでも近付くだけでぴたりと会話を止めてしまう。 そういうことが今日一日の間に幾度もあった。 あの子達に限って何か良くないことを考えているということは無いだろうが、それでも気には掛かる。 ましてや居間にこのような張り紙をされているのだから。

【きりつぐさんは立ち入り禁止】

 拙い字で大きく書かれた紙は子ども達の必死さが感じられる。 その気持ちを無碍にはしたくないが、これでも彼達の保護者なのだから心配するのも当然のことだろう。

「どうするかな」

口ではそう言いながらも気持ちは既に固まっていた。 襖に手を書けると一気に引き開ける。

――チリンチリンチリン

瞬間、小さな音が響いた。 これは家に張ってある結界と同じものか? 誰がこれを……。 そんなことを考えている内に、中からはとたとたという足音が近付いてきていた。

「きりつぐさん! 入っちゃだめって書いてあるでしょ!」
「いや、それは分かってるんだけど二人が何してるのか気になって」
「危ないことはしてないよ? それに後でちゃんと教えるから、今は大人しく部屋で待ってて!」
「はいはい。あぁ、。今の音は君がやったの?」
「うん。襖を開けたら鳴るように仕掛けておいたの」

 ほらね。と言って見せられたのは小さな鈴を紐で幾つも括ったものだった。 魔術では無かったことが分かり、微かにほっとする。 彼女は時々年齢には見合わないほど大人びた様子を見せるから、少し不安だったのかもしれない。

「あはは、これじゃ開けたら直ぐ分かってしまうね」
「でしょ! だからもう入って来ようなんて考えないでね」
「分かったよ。じゃあ、僕は部屋に戻るとしようか」
「終わったら呼び行くからー」

 そして背後で再び閉まる襖の音を聞きながら、部屋へと戻った。 居間の中から漂う甘い香り、それだけで二人が何をしているのか想像が付いてしまったから。

「そういえば、今日だったか。僕自身でさえ忘れていたよ」

 それに気付いてしまえば、二人がどうしてあそこまで必死に隠そうとしていたのかも納得が行く。 子ども達が自分の為に頑張ってくれていることを嬉しく感じないわけが無かった。

「さて、あの子達が呼びに来るまでどうしようか」

 居間に立ち入り禁止にされてしまったからには、これからどうやって時間を潰すかを考えなくてはいけなかった。


 +++


 あれからどれ位の時間が経っただろう。 たったったと板張りの廊下を走る足音でふと眼が覚めた。 どうやら知らない間に眠ってしまっていたらしい。 足音は部屋の前で止まると、そっと遠慮がちに襖を開けた。

「あ、きりつぐさん。起きてたんだ」
「うん。寝てしまっていたみたいだね」
「さっき来た時は寝てたから、疲れてるのかと思って起こさなかったんだけど……」
「大丈夫だよ。呼びに来てくれたってことは、僕の立ち入り禁止は解けたのかな?」
「そうなの! わたし先に行ってるね。士郎も待ってるから、早く来てね!」

 まだ起きたばかりだということが分かったのだろう。 無理に一緒に連れていこうとはせず、は来た時と同じように軽やかな足音を立てて戻って行った。 早く来て欲しいという気持ちを我慢しての行動だったことも分かるので、彼女の気遣いを無駄にしないように手早く服装を直すと彼女の後を追うように居間へと向かう。 数時間振りに訪れた居間には先ほどの張り紙は無く、既に剥がされた後なのだろう。 それを確認すると、なるべくいつも通りを心掛けながら襖を開けた。
 予想をしていなかったわけではない。 今日が11月11日で、自分の誕生日だったと気付いた時から。 それでも、実際に子ども達から祝われるというのは思っていた以上に自分にとって大変なことだったらしい。 食卓の上には二人が作ったのだと思われるケーキが置かれていた。

「あのね、このあいだ大河ちゃんからきりつぐさんの誕生日教えて貰ったから、二人でお祝いしようと思ったの。ケーキもわたしたちが作ったんだよ!」
「ねえちゃんはちょっとしかやってないだろ!」
「ホイップクリーム泡立てたじゃない! あれ大変だったんだから!」
「でもほとんどおれがやった」
「士郎のほうが上手なんだもん。どうせならおいしい方がいいでしょ。ね、きりつぐさん?」
「確かに美味しい方が嬉しいかな。ありがとう二人とも」

 店で売っているのと全く同じというわけでは無いけれど、それでも二人が一生懸命作ってくれたのだということが分かる。 それがどんなに価値あることなのか、二人は知らないのだろう。 かつて自分が犯した罪を思えば、自分はこんなにも安穏とした生活を送ることを許される人間では無いというのに。

「じいさん、どうかしたのか? まさかケーキきらいだったとか?」
「いや、違うんだ士郎。ただ、誕生日なんて祝って貰ったのは久しぶりだったからね」
「ふーん。じゃ、これからは毎年いわってやるよ!」
「ねぇ、きりつぐさん。わたしたちは血はつながってないけど、それでも家族なんだよ」

だから、これからは毎年みんなの誕生日を祝っていこうね。 も士郎もそう言って、屈託無く笑う。
あぁ本当にこの子達は――

「僕には勿体ないくらいだね」
「何が? ケーキが?」
「そういうことに、しておこうかな」
「えー何それ気になる!」
「なぁ、ねえちゃん。おれたち大事なこと言い忘れてないか?」
「あ、そういえばそうだね。じゃあせーので一緒に言おう」

「「たんじょうびおめでとう、きりつぐさん!!」」

2011.11.12