私についてくればいい
人を見掛けで判断すると痛い目を見る。
そんなことは百も承知だったが、それでも、目の前の相手はただの少女にしか見えなかった。
だから、その口から放たれた言葉は何かの間違いなのだと思ったのだ。
「悪い、マスター。良く聞き取れなかったんでもっかい言ってくれる?」
「だからね、アリーナの探索における敵性プログラムとの戦闘は私が引き受けるから、アーチャーは戦わなくて良いよって話」
「……色々聞きたいことはあるんですけど、まずどうしてそういう結論に至ったのかを教えて貰えますかね」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
さも当然のことのように言われたが、おいそれとは頷くわけにはいかない。
こちらとしても召喚されたからには戦うつもりで来ているわけで、そんなことを言われてはサーヴァントが形無しだ。
戦闘に不向きなキャスターならともかく、アーチャーは曲がりなりにも三大騎士クラスの一つである。
それでマスターが前線に立つなど理解不能だった。
「先に言っておくと、アーチャーの強さを疑ってるわけじゃないから。その点については信頼してる」
「そいつはどうも。なら、オレの何がお気に召さないんで?」
「私ね、真っ向勝負しか出来ないの。事前に色々と計画を練ったりとかはするんだけど、いざ戦闘になるとそういう工作とか全部面倒になっちゃうタイプなんだよね」
「つまり、オレと逆ってことすね」
「残念ながら。かと言って、アーチャーに私のやり方に合わせてって言うのも悪いじゃない?」
「いやいや、そこは命令するところでしょ。マスターがサーヴァントに遠慮してどーすんだよ」
かつての在り方と変わったとは言え、魔術師は魔術師だ。
その内面には自身の目的のためには手段を選ばない、非情な冷酷さを兼ね備える。
彼女にはそれが感じられないことは契約の時から分かっていた。
もしかしたら感じられないだけで持ち合わせてないわけではないのかもしれない。
しかし、今の発言からしても前者の可能性の方が濃厚だと言えるだろう。
はっきり言ってやり難いことこの上なかった。
「でも、アーチャーだって自分のやり方にこだわりがあるでしょ。それを私の我が儘で変えて、というのは貴方の人格を否定してしまうみたいな気がして」
「そりゃお優しいことで。でもさ、マスター。サーヴァントも一人の人間だなんて考えんのは止めといた方が良いですよ。そんなんじゃこの戦い勝ち抜けねーっての」
「アーチャーはそれで良いの?」
「良いも悪いも、こっちにはそんな決定権ありませんから。オレはただ、主のオーダーに従うだけ。それに、生きてる時から似たようなもんだったんでね」
「私はそんなの嫌だな。だってどんな形にせよ、貴方は今此処に居るじゃない」
加えて頑固ときた。
ここで素直に頷くならまだ扱いようもあるのだが、こう来られてはもうお手上げだ。
本当に投げ出してしまえるなら、まだ楽だった。
しかし現実はそうもいかない。
どんな相手であれ契約を交わしたマスター。
これまでに数え切れないほどに卑怯者と罵られてきたが、オレだって自分の主を見捨てるほどに落ちぶれたつもりはない。
「つーかそもそも、マスター戦えるんです? 敵性プログラムが雑魚とは言っても、その弱っちい腕でどうこう出来る相手じゃないっしょ。強力なコードキャストも魔力尽きりゃそこまでですし」
「それなら心配いらないよ」
魔術回路の流れが変わったのは即座に感じ取れた。
それからマスターの内側で構築された何かが、その手に現れるまでに時間は掛からなかった。
現れたのは少女の手には不似合いな一振りの剣。
「シャルルマーニュ十二勇士チュルパンの愛剣アルマス。この戦いには必要だと思って持ってきたんだけど、これは――」
「あー言わなくても良いです、それが本物だってことは見りゃ分かりますから。伝承保菌者でしたっけ?」
「うん。英霊のようにはいかないけど、これがあれば敵性プログラムくらいは私にも倒せるから。だから、アーチャーは私についてくればいい」
サーヴァントに戦わなくて良いと、この少女は本気で告げていた。
シャルルマーニュ十二勇士の宝具を持ち、それを使いこなすということはその末裔であることは間違いない。
つまり、彼女もまた騎士ということなのだろう。
清廉潔白な騎士様とは言い切れないが根っこの部分にその性質が染み付いてる。
似ているところなんて一つも無いのに、かつて憧憬を覚えた姿と重なる。
それが今更なんだというのか。
だと言うのに、自重気味な笑いが零れた時には既に気持ちは決まっていた。
「はいはい、分かりましたよ。それがマスターのオーダーなら従いますって」
「ありがとう、アーチャー」
「この場合、礼を言うのはオレの方じゃないんですか? まぁどっちでもいいけど、アンタが本当に危なくなったら否応なく手ぇ出すよ。流儀じゃないって言われても、こっちとしてもマスターを見殺しにするわけにはいかないんでね」
「頼りにしてる」
戦うなと言ったのと同じ口で、朗らかな笑顔さえ浮かべながらそんなことを言う。
その顔はやはり歳相応の少女のものでしかなく、魔術師にも、ましてや神代の宝具を伝え持つ騎士にも見えなかった。
こんな娘に戦いを任せるなんて馬鹿げた話だし、オレが一人でやった方がよっぽど効率が良い。
それでも、彼女のやり方を少しだけ見てみるのも悪くはないと思ったのだ。