健二さんからメールがきた。
夏休み以来たまにメールのやり取りはしているから、それ自体は珍しいことじゃない。
ただ――内容がこれまでとは少し違った。
『キング・カズマを紹介して欲しいって人が居る』
簡潔に言ってしまえばそれだけのことだけど、そう簡単なことじゃない。
いつかは来るだろう、とそれなりに覚悟はしていた。
特に、健二さんは人に頼まれたら断れなさそうなタイプだから。
僕が『キング・カズマ』だって言い触らすような人じゃないことは分かってる。
多分、口でも滑らしたんだろうな。
そう考えると、相手に追求されて慌てる健二さんの様子が思い浮かんで、知らず口元が孤を描いていた。
考えるべきことは一つ。
この相手にメアドを教えることを承諾するか、否か。
健二さんのメールによると、頼んできた人は健二さんの知り合いで夏希姉ちゃんとも面識があるらしい。
『ミーハーなファンとかじゃないし凄く良い子だから、佳主馬くんに迷惑を掛けたりはしないと思う』とのこと。
その話を聞く限りだと良い人であるように思える。
でも、人は簡単に自分を偽れる。
自分の目的の為なら、平気で人を欺けるから。
だから、その人は健二さんや夏希姉の言うような人では無いかもしれない。
どちらの可能性も考えられる。
「どうしようかな……」
このまま断ったとしても、仲介している健二さんに迷惑が掛かるということは無いと思う。
会ったことも無い人にメアドを教えるのが嫌だというのは当然のことだし。
けど、その相手のメールを見る前から断る必要も無いかなと少しだけ思う。
メールを送りたいだけなのだから、そのアドレスは携帯に限定されているわけではない。
パソコンのアドレスでも良いということだ。
考えた末、僕は新しく取得したアドレスを健二さんに教えた。
メールを送るなら此処に。そして、返事をするかどうかは分からないと言い添えて。
もし、届いたメールが唯のミーハーファンからであったら、直ぐに切るつもりだった。
そのために取得した捨てアドだったし、アドレス毎破棄しても何の問題も無かった。
多分、健二さんの話なんて関係なく、メールの相手はミーハーファンであると僕は半ば決め付けていたんだと思う。
――――メールが届くまでは。
From : theempireoflight@ymail.com
Date : 2009年9月6日
Sub : キング・カズマ様
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初めまして、キング・カズマ。
The Empire of Lightの管理人、と申します。
今回はこのような機会を与えて頂いたことに御礼申し上げます。
当ブログについての噂など、キングもお聞き及びであることと存じます。
TELは私の個人的な趣味で始めたものであったのですが、現在このように多くの方に取り沙汰されるようになり、非常に困惑しております。
また、TELがキングの知るところとなった折にはどのように感じられるのか、そのことが最大の懸案事項でした。
きちんとご連絡を差し上げようと思いながらも機会を逸してしまい、今に至ってしまったことをお詫び申し上げます。
つきましては、キング・カズマからの率直な意見をお伺いしたいと思っております。
もしも、キングが快く思われていないようであれば、私と致しましては即座にブログを閉鎖する心積もりです。
元よりあのブログは、私が出会った存在を誰かに知らせたいと思ったことが始まりでした。試合の考察はその中で生じた副産物に過ぎません。
『キング・カズマ』の名は今やOZにおいて知らない者の方が少ないほど有名となりました。既に目的は遂げたのですから、惜しむ気持ちはあり
ません。例えTELが無くなったとしても、私がキング・カズマのファンであることに変わらないのですから。
それでは、宜しければお返事をお待ちしております。
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正直なところ、凄く驚いた。
まず、これほど丁寧な文面のメールがくるとは思ってなかったから。
どうせやたらと記号や絵文字を使用したものだろうと予想していた。
そして何よりも、相手がミーハーファンでなかっただけでなく『あの』ブログの管理人だったから。
特別調べたわけじゃない。
それでも、僕の元にも届いた The Empire of Light の話。
キング・カズマの全試合を考察しているブログがある、ということ。
試合の考察をしているなんてことは珍しくもない、他にも幾らでもある。
しかし、全ての試合となると別だった。それをしているのは一つだけ。
それらに加えて考察が詳細なこともあって、あのTELというブログは有名であるらしい。
その話を聞いて、一度だけ、僕もアクセスしたことがある。
感嘆しなかっと言ったら嘘になるだろう。
一試合における細やかな動きが書かれていて、自分でも気付いていなかったような点にも言及されていたから。
あそこの考察を読むことは今後の参考にもなったと思う。
でも、誰かの評価に頼ることに抵抗があって、アクセスしたのはその一度きりだった。
その一度だけだったにも関わらず、TELの存在は僕の中に強く印象に残っていた。
あのブログの管理人からのメール。
騙っている可能性もあるだろうけど、何となく本人であるような気がした。
いや、そうであって欲しいと僕が願っているんだ。
あそこまで完璧に試合を考察出来るのはどんな人物なのか、興味が湧いたから。
メールを開く前の気持ちは既に消え去っていた。
僕はアイコンをクリックして、返すつもりの無かったメールへの返信を作成する。
(話してみたいと思った。ただそれだけで、理由なんて無い)