「うっそだぁ……」

いつも通り立ち上げたパソコン。 修理も終わり、問題なく以前のように元気に稼動している。 ネットに繋ぐだけで新着メールの確認が出来るように、ホームページに設定してあるメールのサーバー。 だから見逃すわけもなく、それは目に入ってきた。
スクリーンには新着メールの知らせ。 送信者はつい先日、何度も文面の校正して悩み抜いた末にメールを送った相手。

「キング・カズマ……」

正直なところ、返信が来るとは思ってなかった。 期待していなかったわけじゃない。 でも、来なかった時の衝撃が大きいから、極力期待しないようにと自分に言い聞かせていたのだ。 いざ返信が来てみると、どうやら来た時の衝撃もそれなりに大きかったらしい。 当然、嬉しい意味でだけれども。

「え、本当に? 夢とかじゃないの、これ?」

目の前の出来事が信じられなくて、思わず自分の頬を叩いてみる。 こういうのは軽くやっても意味がないから、結構強くやった。 バシンという音が部屋に響く。

「普通に痛い。ってことは夢じゃないんだ」

口に出すことで噛み締めるように確認する。 それによって、全身に染み渡るように嬉しさが広がっていった。

「どうしよう……ほんとに嬉しいんだけどっ!」

叫びたいような気持ちに駆られたが、時間が時間なので机をバシバシと叩くことで代わりとする。 勿論それだけのことでやり過ごせるような気持ちではなく、行き場のない気持ちは心に蓄積されるし手は痛い。 この嬉しさを誰かに伝えたいけれど、簡単に人に話せるような内容ではない。 ということは必然的に話せる相手はキング・カズマのことを知っている人物に限られるから――

「明日また小磯先輩探そうっと」

時刻は既に0時を回っている。 いくら気持ちが昂ぶっているとはいえ、こんな時間に先輩に電話を掛けるような真似は出来ない。 大人しく明日学校に行くまで待つことにしよう。 そうと決まったら早く寝れば良いのに、ついキング・カズマからのメールを読み返してしまう。

「……重症だな、これは」

確実に10回以上は読み返しをしたところで、自分自身に対して苦笑をしながらパソコンの電源を落とした。



 ++++



翌日の昼休み、私は2年生の教室を訪れた。 上級生の教室に行くのは抵抗があったけれど、放課後に部室に行くよりは良いかと腹を括ってのことだった。 入口で近くの人に声を掛けて、小磯先輩を呼んで貰おうと思っていた。 だと言うのに。

「……どうして佐久間先輩が居るんですか」

用があった人だけでなく、呼んでもいない人が其処には居た。

「なに、俺が居ちゃ悪いの?」
「先輩のことは呼んでないので、居ない方が嬉しいですねー」

佐久間先輩だってキング・カズマを知っているのだから、別に居たって問題はない。 でも、ついつい顔を合わすと捻くれたことを言ってしまう。

さぁ、俺と健二で態度が随分と違くない?」
「思い当たる節は無いですね。まぁ、人徳の差ってやつなんじゃないですか?」
「……さりげに失礼だな、お前」
「いえいえ、佐久間先輩もちゃんと尊敬してますよー? 何てったって年長者ですからね」
「あのさ、二人ともその辺にしようよ」

本音と嘘を混ぜ合わせた適度な言葉で佐久間先輩と言い合いをしていると、小磯先輩からストップがかかった。 私も佐久間先輩も本気じゃないことはお互い承知の上だけど、良いタイミングで止めて貰えてたと思う。 昼休みの時間は有限だ、そろそろ今日の目的に入らないと昼休みの間に終わらなくなってしまう。

「そうですね、小磯先輩の言う通りです」
「なんかその発言ですら俺への当てつけに聞こえるんだけど?」
「まぁまぁ佐久間も押さえて。それで、ちゃんの用ってやっぱり佳主馬くんのこと?」

あまり人に聞かれて良い話でもないので、場所は既に移動している。 人目を気にする必要は無いだろう。

「はい。実は、キング・カズマから返信が来たんです」
「え、返事来たんだ!?」
「やっぱり驚きますよね。私も来るとは思ってなかったんで、かなり驚きました」

一晩経って冷静に考えてみたら、やはりあの返信は手違いだったんじゃないかという気がしてきていた。 昨晩は嬉しさを伝えるつもりで先輩に会いに行くつもりだったけど、今はこの納得がいかない気持ちを誰かに説明して欲しかったりする この反応を見ると、直接キング・カズマを知っている小磯先輩ですら返信が来るとは思っていなかったということだ。 キングの性格的に返信は有り得ないのかな? そうなると、返信が来たのは何かの間違いという確信が深まってくる。

「へーキング・カズマから返信来たんだ。ま、相手がTELの管理人なら当然か?」

様々な憶測が頭を駆け巡っているところに、それらを否定するかのような発言が聞こえてきた。 声の主は言うまでもなく佐久間先輩である。

「TELって、あの?」
「そうだよ、健二だって聞いたことくらいあるだろ?」
「何度かあるけど……って、その管理人がちゃん!?」
「俄には信じ難いけど事実だからな」
「佐久間せんぱーい、勝手に人のこと喋らないで貰えます?」

自分から進んで言わないだけで、隠してるつもりはないから話されて困るわけじゃない。 現に、佐久間先輩はTELの記事を読んで気付いたんだろう。 私自身がそれを示唆する発言をしているのだから、そのことについては特に不満はない。 でも、目の前で勝手に話されるのは嫌だった。 それならちゃんと自分んで話したい。

「佐久間先輩の言う通り、私が The Empire of Light の管理人です。本当なら小磯先輩にお願いした時に伝えておくべきだったんでしょうけど、こんな形になって済みません」
「いや、ちゃんにも事情があったんだろうし、気にしないでよ」
「事情……という程のことじゃないんですけどね。ただ、最初に自分から名乗る相手はキング・カズマが良かった、ってだけなんです」

言っててあまりに子供染みたこだわりで、恥ずかしくなってきた。
いつの間にそう思うようになったのか。少し前までは名乗る気さえもなかったというのに。

ちゃんにとって佳主馬くん、いや、キング・カズマはそれだけ大切な相手なんだね」
「会ったこともないのに変ですけど、そう……なんだと思います」
「でさ、気になってるんだけど、はいつからキング・カズマ追ってんの?」
「彼がOMCに登録した直後くらいからです。だから、正確にはカズマの頃から追い掛けてることになりますね」
「はぁっ!? 最初からってことかよ。それなら記事を消すのも納得だ」
「最初の頃は考察じゃなく感想みたいなものだったから残しておいても良かったんですけど、やっぱりキングになったんだから消した方が良いかなと思ったんで」

キングは不敗だからこそのキングだ。 過去のこととはいえ、敗北の記録を残しておくのは妙な誤解を招くことに繋がると判断した結果だった。 手元にログは残してあるから、データそのものが完全になくなったわけではないし。

「こうして聞いてると、佳主馬くんが返信したのも納得出来るね」
「なんでですか?」

笑顔さえも浮かべながら、小磯先輩は何故か一人で納得していた。 先輩がそう思った理由が全く分からなくて、私は首を傾げる。

「だって、ちゃんは凄く佳主馬くんのことを思って行動してるから。多分その想いが伝わったんだよ」
「俺にはそういうタイプに見えなかったぞ」
「先輩、私もそれはないかと思うんですけど……」

私と佐久間先輩は二人して否定する。 珍しく意見があった瞬間だった。

「うーん、でも返信が来たのは少なくとも理由があると思うよ?」
「社交辞令とかの可能性だってあるじゃないですか」
「それはないよ」

きっぱりと言い切られた。 何だろう、断言出来るだけの根拠があるんだろうか?

ちゃんには伝えてなかったんだけど、佳主馬くんからアドレスの連絡が来た時に『返事をするかどうかは分からない』って言われてるんだ。
 だから、佳主馬くんがちゃんとコンタクトを取りたいと思わない限り返信はなかったはずだよ」

だからそんなに不安になったりしなくて良いんだよ。 そう締め括られた。

「……返信しても、迷惑じゃないですかね?」
「大丈夫、僕が保証するよ」
「健二が保証してもあんま意味無いけどな」
「ありがとうございます、小磯先輩に話して良かったです。佐久間先輩は一言余計でしたけど」

その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。 1年と2年では階が違うけど、私達は途中まで一緒に戻ることにする。 他愛もない会話をしながらの道はあっという間だった。


(帰ったら、メールの返事を書こう)