0.始まりとは終わりの兆しである

物語――それは確かなる終わりを持つもの。

その始まりもまた然り。

始まりは終わりを約束する。


今、一つの物語が始まる――――。





ONE STORY





『千年パズルが……っ!』
「どうしたの、突然?」

静寂が当たり前となっていた部屋で突然叫ばれたら驚く。
言外にそういう意味も込めて彼に尋ねた。

『済まない。いや、だが、こんなことが……』
「何か……あったの?」

彼がこうも明らかに動揺するなど滅多に無いことだから、事の重大さを感じ取り先程よりも幾分か真剣に尋ねた。

『……千年パズルが、砕かれた』
「え!?」

一拍おいて後の彼からの返答は予想だにしないものだった。

「ちょ、待って、パズルが砕かれたってことは、もう一人の武藤くんはどうなるの?」
『分からない。器の武藤遊戯が再び組み立てることで、戻られるかもしれないが、もしかしたらもう二度と……』
「行かなくて、いいの?」

硬く拳を握り締めた彼がとても辛そうで。決して彼が首肯しないことを分かりつつも、思わずそう問い掛けていた。

『今は未だ、時期ではないからな。それに、アイツが動いたから、何とかなるだろう』
「アイツって、千年リングの……」
『そうだ。アイツの目的の為には千年パズルも器の彼も欠かせない存在だ。きっと悪いようにはならない』

そんなに辛そうな笑顔を浮かべるくらいなら今直ぐ行けば良いのに。私の体なら貸してあげるから。

そう思っても口に出せないのは、私が千年アイテムに関しても三千年前のこともほとんど知らなくて、どれ程辛くても彼が動くことの出来ない理由も知らないから。数年前から身体を共にしている彼が私に伝えてくれている情報はあくまで断片的なものに過ぎない。何も知らない私が簡単に口出しして良いことではないのだと思う。

「そっか。変化があったら、分かるんだよね?待つことしか出来ないけど、『待つ』ということも大事なことだよ」
の言う通りだ。今までだって十分待ってきたんだ、この程度のこと……待てないことはない』

私の提案は僅かながらも彼を浮上させることが出来たみたいだ。それだけで、多少ながらも救われた気持ちになる。

彼が私の意思を尊重してくれるように、私も彼の意思を尊重したい。そして、彼が私を助けてくれるように、私も彼を助けてあげたいから。
実体がないとか、生きた時代が違うとか、関係無い。

今此処に居るのだから。

時折、兄のような優しさを私に見せてくれる。私の中に居る私とは別の、もう一人の人物である彼。




っ!千年パズルが元に戻った。王も再び現世に戻られた』

本当に嬉しそうに語り掛けてくる。数十分前にはあんなにも思い詰めた表情をしていたのに、思わず苦笑してしまうのは仕方無いことだ。

「良かったね、。また、もう一人の武藤くん、ううん、王様に会えるよ」

私には出来ないことを、此処に居ないながらいとも容易く成し遂げてしまう王様に対して、ちょっと嫉妬したのは秘密だ。

『ありがとう、
「別に、私は何もしてないよ」
『でも、俺は礼を言っておきたかった』
「そう?じゃあ、どう致しまして」

そっけない私の返答が照れ隠しであることを分かっているのだろう。は気を悪くしたふうもなく、変わらずに微笑んでいた。微笑みながら言われたその一言で、王様への嫉妬も吹っ飛んでしまうとは……これが『ブラコン』ってやつなのかな。とすると、どうやら私はかなり重度のブラコンということになりそうだ。



これは物語の序章。

世界は終わりに向けて動き出したわけではない。

物語が本格的に始まるまで、まだ時間がある。