5.時は決せられた。骰を投げよ。
やってきました日曜日。今日は先日話題になった決闘大会の開催発表日だ。そして私は今何をしているかと言えば
「、何ぼーっとしてるのよ」
舞さんとのデートの真っ最中だった。
あの後、舞さんから返信で暇なら時間までお茶でもしようと誘われたのだ。
私が舞さんからの誘いを断るわけもなく、即刻OKの返事をした。
そういうわけで今に至るわけだが、正直私は非常に疲れている。
洋服に始まり、メイク、アロマ、etc
様々な店を連れ回されて、漸く喫茶店に落ち着いているのだ。
一緒に回るだけでも疲れるというのに、着せ替え人形にされたりしたものだから疲労は倍増していた。
そもそも舞さん好みの服は私には着れない、スタイルという酷く深刻な壁が立ち塞がるからだ。
「ちょっと、もう年かな、ってしみじみ感じてたの」
「まだ17のくせに何言ってんのよ」
「17なんて四捨五入したらもう20だよ」
「あんた、あたしに喧嘩売ってんの?」
そういえば舞さんはもう24歳だ。
私からすれば、舞さんは素敵な大人の女性であるが。
24歳の自分なんて想像も付かないが出来るなら、舞さんのような女性になりたいと常々思っているくらいだ。
けれども、舞さんにしてみればそうでも無いのだろう。
「そんなつもりは全くもってないです。生意気言って済みませんでした」
「いいわ、許してあげる」
この話題はもう横に置いておいた方が良いだろう。
女性に年齢の話がご法度だ、ということは遥か昔から伝えられている教訓である。
故人の言うことに間違いは無い。
「落ち着いたことだし、改めて久しぶり舞さん」
「そうね、直接会うのは半年振りかしら」
「私がデュエリストキングダムに参加しなかったからね」
「そうそれ、なんで参加しなかったの?のところにも届いてたでしょ」
「あー丁度、兄さんが帰って来てて……」
語尾を曖昧に濁して答える。
出来ればあの兄について詳しく述べたくはない。
嫌いではないのだが、苦手ではあるのだ。
「あら、ってお兄さん居たの?」
「うん、年の離れた兄が一人。そのせいで若干過保護気味でね」
「みたいな妹だったら過保護になるのも無理ないわねー」
あたしだって可愛がるし、と頷く舞さん。
え、そこ納得するところなの? と思ったが、突っ込むに突っ込めず流すことにする。
舞さんみたいな綺麗なお姉さんに加保護にされるのは嬉しいが、兄にされても鬱陶しいだけだった。
「で、『そんな何処の誰とも知れない野郎が招待した島なんかに一人で行かせられるかっ!!』と言われ、代わりに観光案内とかさせられてたってわけ」
IRって相当有名な会社なのにさ、吐き捨てるように私は言う。
しかも社長であるペガサス・J・クロフォードはアメリカ人なのだから、KCよりもずっと海外で有名だろう。
何でも知っているようでいて肝心なことを知らない兄である。
「あはは、そういうことか。島じゃ一晩野宿しなきゃいけなかったし、お兄さんの言うことも一利あるかもね」
「野宿くらい平気なのに」
「でも、参加しなかったのはやっぱり勿体無かったかもね。面白い奴等に会えたわよ」
「面白い奴等って?」
「優勝した武藤遊戯はも知ってるでしょ」
「まぁね」
「遊戯とその仲間達がさ『友情』なんて言ってて、あたしも最初は莫迦にしてたんだけどね。その中の一人に教えられたんだ。『見えるけど、見えないもの』今までずっと一人だったあたしには、支え合うなんて考えたこともなかった。……仲間っていうのも良いものね。それに、あたしなりの答えを見付けられたし。決闘以前に、人として成長出来たと思うわ」
何処か遠くを見ながらそう言った舞さんは、確かに前よりもっと素敵になった気がした。
私と舞さんは一人の決闘者として互いに認め合っていたが、それは友情ではなかった。
だから、どんなに時間を重ねたとしても、私では舞さんを変えることは出来なかっただろう。
きっとそれは、彼達だったから出来たことなのだ。
「ちなみに、私との関係は?」
「トーゼン、も仲間よ」
「ありがとう、舞さん」
こんな風に舞さんが言ってくれるようになったのも、その人のおかげなのだろう。
あのメンバーの中でそんなこと言いそうなのは、何となく予想は付く。
そして私は今の舞さんの様子に気なるところがあったので、敢えて追究してみることにした。
「舞さん、それって城之内のことでしょう」
「え……何でが知ってるのよ!?」
いや、知っていてもおかしくは無い。むしろ知らない方がおかしいだろう。
一応あれでも、城之内はデュエリストキングダムで準優勝だったのだ。
「えーと、実は遊戯達とはクラスメイトなの。でもって、ついこの間、三日前に友達になったから」
「へぇ、そんな偶然ってあるのね」
「私も、まさか舞さんが遊戯達と知り合いになってるとは思わなかったよ」
知り合いの知り合いが知り合いだった。
良くありそうで、現実には意外と少ないのである。
二人して一頻り笑ったところで、私は先ほどから気になっている、ある質問をぶつけてみることにした。
「ね、舞さんって城之内が好きなの?」
「ゲホッ、ゴホッ」
「うわ、大丈夫?」
慌てて立ち上がり、盛大に咽た舞さんの背中を擦る。
此処まであからさまな反応が返ってくるとは思っていなかったので焦った。
舞さんなら余裕でかわすかと思っていたのだが……流れも何も無い、唐突な質問だったからか。
「ちょっと、いきなり何てこと言うのよっ!!」
「だって、『その中の一人』のこと話してる時の舞さんが、如何にも恋してます、って感じだったんだもん。それにあんなに動揺したってことは、図星じゃない?」
「それはあまりにも有り得ないことだったからよ! あたしが城之内を好きだなんて、そんなことあるわけないじゃない!」
「そう? でもさ、顔真っ赤だよ」
「そっ、そんなこと無いわよ!?」
「舞さん、かっわいー」
「、大人をからかうんじゃない!」
舞さんでもあんな顔するということは新たな発見だった。
意外と言えば意外かもしれない。
常に『大人の女性』という雰囲気を纏っている舞さんの可愛い一面が見れたのだ。
これがギャップ萌えというやつなのかもしれない。
「城之内は鈍いから、直接言わないと気付かないと思うよ。頑張って!応援してるから」
「だから、違うって言ってるでしょ!」
城之内に好きな人は居ないだろうが、そもそも『付き合う』ということにあまり興味がなさそうだ。
健全な男子高校生らしく、そういったことに興味はあるようだが、それがきちんと恋愛感情には結び付いていないと見える。
それに、静香ちゃんのこともある。
舞さんってば、前途多難だなぁ……。
そう思っていると、平静さを取り戻した舞さんに逆に質問をされた。
「そういうはどうなのよ?」
「え、私?」
「そうよ、誰か良い人とか居ないの? 気になってる人とかは?」
「そんなこと言われても、まず出会いがないし」
「あんた女子高校生でしょ? 出会いなんてそこら中にあるじゃない」
そこら中にはないと思う。
普通の女子高校生の生活範囲というのは意外と狭い。
学校にしても、自分の教室から出ない限り出会いなどそうそう無いのだ。
「最近会ったのって遊戯達くらいだし、しかもその中の一人は久しぶりに会った幼馴染だったしね。それくらいしか居ないよ」
「その幼馴染とはどうなのよ? 成長した相手見て何か思わないの?」
「いや、特に」
だって了だし。
確かに前にも増して美少年になったとは思うけど、中身があれでは恋愛感情など沸くわけもない。
それに、どちらかと言うと、了よりも……ん?
私は今何考えたのだろう?『了よりも』何だと言うのか?
「なぁに、。思い当たる節でもあった?」
「無いから、断じて無いから」
「必死になってるところが怪しいわねぇ。ほら、お姉さんに話してごらんなさいよ」
「ちょ、舞さん落ち着こうよ。本当何でも無いからさ、自分でも良く分かんないし」
「まだ無自覚なのね。いつか分かる時が来るわよ、」
両肩に手を置かれて力説された。
舞さんの楽しそうな顔見てると、そんな時は一生来なくて良いと思えた。
分からないままの方が幸せな日々を送れる気がしたからである。
それから決闘の事やその他の雑談をして二時間程過ごした。
もうそろそろ行った方が良いかもしれないわね、と舞さんに言われ時計を確認すると、確かに時間が迫ってきていた。
楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去る。
名残惜しいが本来の目的はこの後に待っている、それを二人とも忘れてはいなかった。
「は何処から見るつもり?」
「どうせ大々的に発表するだろうから、そこら辺のビルから見ることにする」
「そう、じゃあ此処でお別れね」
「うん。もし参加するなら、今度会う時は大会だね」
「えぇ、それじゃあ」
Bye、と手を振って舞さんは去って行った。
立ち去る舞さんの背中を見送ると、私も手近なビルへと向かうことにした。
とあるビルの屋上。
念の為、不法侵入では無いと断っておく。
「大分集まってきた」
インセクター羽蛾、ダイナソー竜崎と言った有名所から、そこらの町のヤンキーっぽい人まで。
少し見た限りでも実に様々な人々が居た。
「休日返上してくるなんて、皆暇人だなぁ。もしくはニート」
『そういうお前もだろ』
「まぁね。物好きの集まりってことか」
からの突っ込みに答えながら、上空からの人物観察を続ける。
舞さんと居る間は、ずっと心の中に居たらしくの声を聞くのは朝方振りだった。
その時、人混みの中に見覚えのある人物を見付けた。
「あ、遊戯と杏子だ」
舞さん凄いからんでるし、杏子の首絞まってるって。
さっき私に散々からかわれたからかなぁ、とばっちりでごめんね杏子。
って、あれ?
丁度表れた舞さんと二人の様子を見ていると、あることに気付いた。
『、あれは王だぞ』
「私も今気付いた。王様の方だね」
杏子と二人だけだから、てっきり遊戯の方だと思っていたのだが。
どうやら王様と杏子のデートだったらしい。
一昨日学校で何か頼んでいたようだし、恐らく遊戯が仕組んだのだろう。
恋愛には奥手らしい杏子の様子からして、自分から王様をデートに誘ったとは考え難かった。
『おい、あそこを見ろ』
「ん? あ、海馬くんだ」
に注意を促された方を見てみれば、大通りのテレビの画面が次々に某クラスメイトの顔に切り替わっていく。
あれは世間一般的に電波ジャックと言うのではないかい?
きちんとテレビ局の許可は取ってあるのだろうか、と検討違いのことを心配してしまう。
「決闘者の諸君、良く聞くがいい。
一週間後、この街において――海馬コーポレーションがM&Wの大会を開催する!」
その言葉によって一斉に沸き立つ群衆。
この場に居るのだから、彼達もまた決闘者である。
決闘者にとって大会とは欠かせないものなのだ、当然の反応だろう。
「やっぱり海馬くんか。予想はしてたけど、派手な発表の仕方だなぁ……おかげでこんなビルからでも見れるけどさ」
『話を聞かなくて良いのか?』
「一応聞いてるよ。分かんなかったら後で聞くし」
画面の中の海馬くんは次世代デュエルディスクという自社商品の宣伝している。
大会開催もタダではない。
それなりの収益を得ないと、KCと言えども赤字になるということか。
世の中の世知柄さというものについて考えていると、心地良いかった夜風が不意に突風へと変わった。
「何!? は、ヘリコプタぁぁぁぁあっ!?」
『わざわざ来るんだったら、最初からヘリコプターでやれば良かったんじゃないのか?』
「……私もそう思う。でも問題はそこじゃないよ、」
一般人であるならば、まず使用しないヘリコプターというもので登場することが問題なのだ。
普通に歩いて登場しても良い筈である。
彼の辞書には恐らく『常識』という言葉が無いのだろう。
出来るものならば書き足してやりたい。
「闘いの舞台はこの童実野町全域!!
一週間後――この街はバトル・シティと化す!」
町全体で決闘をするということか。
何時何処で誰と決闘になるか分からない。
加えて、アンティルールの採用。
負けることは単なる敗北ではなく、自らの大切なカードを失うことも意味する。
これは、今までに無い形式だね。
『参加するのか?』
「こんな面白いの、参加しないわけにはいかないでしょ」
『……そうか』
は何か言いたそうだったけど、私の頭は既にバトル・シティのことで一杯だった。
迷いなんてものは今ので吹っ飛んだ。
私とて決闘者だ、よりレベルの高い者と闘える機会があるというのならば黙って見てはいられない。
喜んで渦中に身を投げ出そう。
「よし、家に帰ってもう一度デッキの見直ししよっと!」
出るからには勿論優勝を目指す。
一週間。長いようで短いこの期間に、出来るだけのことをしておきましょうか。