9.決闘!!
「オレ様の先攻でいくぜ。ドローカード! 【夢魔の亡霊<☆4 1300/1800>】を召喚。リバースカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

守備力の方が高いモンスターをわざわざ攻撃表示? しかも攻撃力1300なんて、レベル3のモンスターであっても倒すことが出来る。 攻撃を誘っているのだとしたら、あのリバースカードがダメージ反射や攻撃モンスターの破壊効果を持っている可能性が高い。

「私のターン、ドロー! モンスターを裏守備でセット」

私の手札には【夢魔の亡霊】を倒せるモンスターは居ない。 バクラのデッキの特徴もまだ分かってはいないし、此処は守備表示で一先ず様子を見ておくべきだと思う。 2ターン目から果敢に攻撃していく必要は無い。

「リバースカードを1枚伏せて、ターンエンド」
「オレのターン。モンスターを1体裏守備表示で召喚。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

今度は裏守備か。 そして【夢魔の亡霊】を守備表示に変更することもしなかった。 効果モンスターでも無いし、それなら最初から守備表示で召喚すれば良い話だからここで守備表示に変更するのも可笑しなことだけど。 2枚目のリバースカードも気になるし、攻撃をするにしてもこのままでは遣り難いな。

「よし、私のターン! 【お注射天使リリー<☆3 400/1500>】を攻撃表示で召喚! そして、リバースカードオープン、【サイクロン】を発動!! 場に伏せてある魔法及び罠カードを1枚破壊する」

魔法カードは手札からでも発動可能だけど、リバースカードとして相手に警戒させることも出来る。 手札にあって捨てられることもあるし場に伏せていても破壊されることもあるから、どっちが良いとは一概に言えないけど。

「じゃあ、左側。最初に伏せた方を破壊、墓地に捨てて貰うよ」
「はっ、残念だったなぁ」

口元を釣り上げているバクラの様子からして、破壊されたのは重要なカードでは無かったということか。 裏返されたカードは【盗賊の七つ道具】。 発動した罠カードをLPを1000払うことで破壊する罠カード。 このカードは私が罠カードを発動しない限り発動出来ない、要するに私の【サイクロン】は無駄打ちだったということだ。 せめてもう1枚の方を選んでおけば良かったかも、といったことは決闘中に誰でも良く考えることだと思う。 上級モンスターの召喚を防ごうとして裏守備モンスターを攻撃したらリバース効果で破壊なんてことも良くある。

「どうしたよ? 右を選んでおけば良かったとか思ってんのか?」
「思ってないよ!! それに、まだバトルフェイズは終わってないからね。私は【お注射天使リリー】の効果を発動! LPを2000払うことで、攻撃力を3000上げる。【夢魔の亡霊】を攻撃!!」
「かかったなぁ、永続罠発動! 【戦慄のアースバウンド】!!」

やっぱり攻撃カウンター系罠カード、しかも永続だし。 【サイクロン】はもう使ってしまったので、魔法・罠破壊の出来るカードはあと2枚しか残っていない。 攻撃する度に500のダーメジか、面倒だなぁ。

「これでお前は攻撃する度に500ポイントのダメージを受ける。どうする、攻撃を続けるか?」
「当然でしょ。リリーで【夢魔の亡霊】を攻撃!リリーの攻撃力は3400に対し、【夢魔の亡霊】は1300。2100のダメージだよ」

とりあえず叩ける時には叩くがモットーだったりする。 リバースカードも何だか分かったし、効果モンスターでも無いモンスターを叩かないのは勿体無いからね。

「【戦慄のアースバウンド】の効果で500のダメージを受けて貰うぜ」
「分かってるよ。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

これでバクラのLPは5900。 でもリリーを使い、【戦慄のアースバウンド】の効果を受けた私のLPは5500。 リリーはレベル3でありながら3000を超える攻撃力を出すことが出来るが、その代償も大きい。 永続罠と合わせると1ターンで2500もLPを削られることになる。今回はリリーの効果を多用するのは避けた方が良いかもしれない。

「オレのターン、ドロー。モンスターを裏守備表示で召喚。リバースカードをセットして、ターンエンドだ。さぁ、攻撃してこいよ。

また裏守備か。 一見すると、攻撃力の高いモンスターが居ないから守りに徹してるとも取れる。 しかし今のターン、バクラはリリーを攻撃してこなかった。 攻撃力400のリリーを攻撃することで、私のLPを削ることが出来たというのに。 効果を使ったリリーの攻撃力に勝てるのは上級モンスターしか居ないから、その場合はバクラも攻撃によるダメージを受けることにはなるけど。 リリーの効果はダメージ計算の直前で発動される、よって攻撃宣言の取り消しは効かない。 それを回避したということなんだろうか?

「私のターン! モンスターを1体、裏守備表示で召喚。そしてリリーを守備表示に変更。攻撃はしないよ、そんな言葉に釣られないからね」

そしてエンド宣言。 上級モンスターと攻撃力の高いモンスターが来ない以上、守りを固めるしか無い。 この間の調整で効果モンスターを多く入れたのが裏目に出てるみたいだ。 便利だけど、効果モンスターは大概攻撃力が低い。 だから装備魔法でそれを補えるようにはしているのだけれど、肝心の装備魔法が来ないので意味が無い。 デッキが上手いように回らない……。

「オレのターン、ドロー!! 【ニュート<☆4 1900/400>】を攻撃表示で召喚!!」

攻撃力1900、通常召喚のモンスターではかなり高い攻撃力だ。 しかも効果モンスター。これはもしかして危なかったりするかもしれない。 でも、私の場にあるモンスターは全て守備表示。【ニュート】が貫通効果を持たない限り、LPを削られることは無い。

「【ニュート】で【お注射天使リリー】を攻撃! ターンエンドだ」

リリーは破壊されちゃったか、まぁ守備力1500だから仕方ないかな。 それにしてもバクラが【お注射天使リリー】と言うと違和感がある、しかも真剣だから余計笑えてしまう。吹き出さなかったことを褒めて欲しい。

「おい、何笑ってんだよ」
「い、や……気にしないで、大したことじゃないから」
「そこまで眼の前で爆笑しておきながら、気にするなって方が無理だろうが」
「うん、本当に、気にしなくて良いから。私のターン、だよね。ドロー」

思わぬ攻撃を受けたけれど、何とか気を取り直してカードをドローする。 今は決闘中。 自分に言い聞かせることで、眼の前のカードに対する集中力を取り戻していく。 そろそろ上級モンスターに来て欲しい所だけど、引いたのは魔法カード。 私のデッキにおいては魔法カードも重要な意味を持つ、でも今はまだ必要な時じゃない。

「モンスターをセット。ターンエンド」

これで手札にあったモンスターは全て場に出た、そろそろ上級モンスターに来て欲しい。 でも、ただ壁モンスターを増やしているだけじゃない。 私がこのターンで伏せたのは、【アステカの石像<☆4 300/2000>】。 相手の攻撃力を守備力が上回っていた場合、相手の受けるダメージは2倍になる効果を持っている。 攻撃力が低いのが難点であり守備封じをされたらアウトだけど、バクラはデッキに守備封じを入れるタイプでは無いと思う。何となく、イメージで。

「守りを固めてるだけじゃ、オレ様には勝てないぜ。オレのターン! モンスター1体を生贄に、【死霊伯爵<☆5 2000/700>】を召喚!」

確かに、守備を固めているだけでは勝利は掴めない。 それでも、自分のLPを減らすことは避けられる。 何と言われようとも、キーカードを引くまではこのまま凌いでみせる。 それにバクラだって、人のことを言えないくらいに守備が多い。 このターン召喚した【死霊伯爵】だって生贄召喚をしたというのに攻撃力はたったの2000。 私がさっき伏せた【アステカの石像】のように、レベル4以下のモンスターで守備力2000だって居るのに。 あれでは守備モンスターを突破することも難しいんじゃないだろうか。

「【死霊伯爵】と【ニュート】で裏守備モンスターを攻撃!!」
「あーあ、逆にしとけば良かったのに。【髑髏顔 天道虫】の効果発動!このカードは墓地に送られた時にLPを1000回復する。そして【アステカの石像】のモンスター効果、守備力が攻撃力を100上回ってるから、その2倍200のダメージ相手に与える!! どう? 守ってるだけでも、ダメージを与えることは出来るんだよ」
「っち……両方効果モンスターかよ。まぁ良い、ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー」

最初は生贄召喚を狙っているのかと思っていたけれど、召喚された【死霊伯爵】の攻撃力は僅か2000。効果モンスターでもなかった。 一体何を狙っているのか、バクラのデッキが全く読めない。 でも、天道虫の御蔭でLPは回復しているし、待っていたカードも漸く手元にやってきた。 そろそろ、勝負に出るとしますか。

「よし、【アステカの石像】を生贄に、【闇紅の魔導師<☆6 1700/2200>】を召喚!!」
「なんだぁ? 生贄召喚しておきながら、攻撃力1700の雑魚かよ」

……どうしてだろう、似たようなことを自分も考えていたのに、人に言われるとこうもムカつくのは。 闇紅の元々の攻撃力1700は【ニュート】にすら劣る。が、それだけではない。 だってこのカードは、私のエースモンスターなのだから。

「さぁ、それはどうかな? 闇紅を舐めてると、痛い目見るよ。手札より、魔法カード【強欲な壷】を発動。新たに2枚カードをドローする」

引いたのは2枚とも魔法カード。 しかしさっきまでとは状況が違う、今は魔法カードがくるだけ有利になるのだ。 私の引きも、まだまだ捨てたものじゃないらしい。

「更に【死者への手向け】を発動! 手札を1枚捨てることで、場に存在するモンスターを1体破壊する。破壊するのは勿論【死霊伯爵】」

【ニュート】は効果モンスターのようだから、迂闊に破壊するのは危険だろう。 それに対して、通常モンスターの【死霊伯爵】なら破壊しても怖くはない。ということだ。

「そして、【闇紅の魔導師】で裏守備モンスターを攻……」
「攻撃宣言と同時に、【戦慄のアースバウンド】の効果で500ポイントのダーメジだ」
「分かってるよ、LP6000でしょ」

やっぱり、あの【戦慄のアースバウンド】は早く何とかしないといけないな。 裏守備モンスターへの攻撃では相手へのダメージを与えることは出来ないから、こちらだけがダメージを受けてしまう。 今はまだLPに余裕があるから良いけど、そうのんびりもしていられない。

「そして墓地に送られたことで、【クリッター】のモンスター効果発動!」
「うわ、【クリッター】か……」
「その様子だと【クリッター】の効果は知ってるみてぇだな。デッキから攻撃力1500以下のモンスターを1枚手札に加えさせて貰うぜ」
「どうぞ。私はターンエンドだよ」

攻撃力1500以下という縛りはあるが、守備力の高いモンスターや効果モンスターを手札に加えられる【クリッター】の効果はかなり便利だ。 でも、手札に加えるだけで特殊召喚をすることが出来るわけではない。相手の場に複数モンスターが居る場合には、【キラー・トマト】や【巨大ネズミ】の方が便利とも言える。 まぁ、どちらも攻撃表示しか出来ないのでダメージは受けてしまうから、サーチの幅の広い【クリッター】の方が良いと言う人も居る。 デッキの特性にもよるし、人それぞれ、ということだ。

「オレのターン。今度はオレ様がその攻撃力の低い上級モンスターを破壊してやるよ。【ニュート】で【闇紅の魔術師】を攻撃!!」
「舐めないでって言ったでしょ、闇紅の効果を教えてあげる。闇紅は召喚に成功した時に魔力カウンターを2つ乗せることができ、自分と相手が魔法カードを発動する度に、更に魔力カウンターを1つ乗せていく。そして、闇紅の攻撃力は溜まったカウンター×300上昇する。さて、今カウンターは幾つ乗ってると思う?」
「さっきのターンでお前が発動した魔法カードは2枚。ということは合計4、つまり攻撃力は2900か」
「そういうこと。モンスター効果は召喚時から発動していた、だから攻撃宣言の取り消しは効かないよ。【ニュート】は返り討ちだね」

これが闇紅の効果。 元々の攻撃力は1700と低いが、魔法を発動すればその分だけ攻撃力は上がる。 しかもカウンターは相手が発動した魔法カードでも溜まっていくのだ。 使い方次第では、レベル6でありながら攻撃力3000を越えることも可能である。 それはつまり、レベル8の【青眼の白龍】だって倒すことが出来るということだ。

「っち、まさか魔力カウンターデッキとはな。厄介なもん使いやがって」
「これで迂闊に魔法カードも使えないでしょう。さぁ、これでバクラの場にモンスターはいなくなったよ。生贄にするモンスターも居ない状況で、どうやって攻撃力2900のモンスターを倒す?」
「いいや、そいつの攻撃力は2400だ。【ニュート】のモンスターの効果、このカードを破壊したモンスターは攻撃力・守備力共に500ダウンする」
「別に500くらい減っても構わないよ。まだまだ闇紅の攻撃力は上がるから」
「はっ、言ってろ。オレは、モンスターを裏守備でセット、リバースカードを伏せてターンエンドだ」

一気に場のモンスターを減らされたというのに、バクラは余裕そうな表情を浮かべている。 この状況を覆す自信があるということなんだろうか? バクラの場にモンスターは裏守備表示の1体だけ。次のターン、私が他のモンスターを召喚すればそれでダイレクトアタックをすることが出来る。 でも、バクラの狙いが分からない以上、油断は禁物ってことか。

「私のターン。【聖なる魔術師<☆1 300/400>】を反転召喚、リバース効果により自分の墓地から魔法カードを1枚手札に加える。私は【サイクロン】を選択。そして即効魔法【サイクロン】で【戦慄のアースバウンド】を破壊!!」

これで漸く【戦慄のアースバウンド】を破壊することが出来た。 リバース効果モンスターは攻撃で破壊された時にも効果を発動する。 だからバクラの攻撃を待つつもりだったんだけど、そろそろ待ち切れなくなったから。

「いくよ、闇紅で裏守備モンスターを攻撃!!」
「そう簡単にさせるかよ。リバースカードオープン、罠発動【沈黙の邪悪霊】!! モンスター1体の攻撃を無効にし、他の相手モンスターを代わりに攻撃させる。攻撃宣言を【闇紅の魔術師】から【聖なる魔術師】に変更するぜ。オレの裏守備モンスターは【首なし騎士<☆4 1450/1700>】、1400のダメージだな」
「っ……私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」

今のダーメジはかなり効いたな、LPは一気に4600まで減ってしまった。 それに対してバクラのLPは4700。 けれども、今のターン魔法カードを発動したことで闇紅の攻撃力は再び2700になった。 まだ、私に有利な筈だ。

「オレのターン、ドロー!! ククク……きたぜ」
「え、まさかミラフォを引いたとか?」
「違ぇよ。おい、。確かに攻撃力2700を越えるモンスターを召喚することは容易じゃねぇ。だが、何もLPを0にするだけが勝利じゃないよなぁ?」

LPを0にせずに勝つ方法は確かに幾つかある。 特にエクゾディア辺りが有名だろう。 でも、エクゾディアは遊戯のお祖父さんのカードで、しかもインセクター羽蛾によって海に捨てられたという噂を聞いた気がする。 だとしたら、一体……?

「オレ様は墓地に眠る3体の悪魔族モンスターを除外し、【ダーク・ネクロフィア<☆8 2200/2800>】を守備表示で特殊召喚するぜぇ!!」
「あーそうか、ネクロフィアとウィジャ盤のコンボ!!」

それなら今までのバクラの行動も納得が出来る、悪魔族を墓地に増やす為。 言われてみれば、今までのバクラのモンスターは全て悪魔族だった。 全てはネクロフィア召喚の伏線だったというわけだ。

「お前、ネクロフィアの能力も知ってんのかよ」
「まぁね、だって一度悪魔族デッキ組もうとしたことあったし。そのネクロフィアをデッキに入れようとしてたから」
「それなら話は早ぇ。ネクロフィアが墓地に行けばウィジャ盤が発動することになるぜ。まぁ、それ以前に【闇紅の魔術師】の攻撃力よりもネクロフィアの守備力が上だから破壊は出来ないがな」

魔法カードを発動すれば、闇紅の攻撃力を上げることは出来る。 でも、ネクロフィアを墓地に送った後にウィジャ盤を防ぐ手立てが無い。 バクラの手札にウィジャ盤のカードが何枚揃っているのかは分からないが、最悪5ターンでケリが付く。 その間に確実に勝利出来るかどうかは微妙だ。 ネクロフィアを除外出来れば話は簡単だが、デッキに除外効果を持ったカードは1枚しか入れていない。 このタイミングで、それを引くのはかなり難しい気がする。

「まだオレのターンは終わっちゃいない。オレは更に【怨念のキラードール<☆4 1600/1700>】を攻撃表示で召喚。そして【怨念のキラードール】で【聖なる魔術師】に攻撃!」
「リバースカードオープン、【魔法の筒】発動。相手の攻撃を無効化し、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える。攻撃力300のモンスターを攻撃表示にするんだから、それくらいの防御は張ってるよ」
「だが、次の攻撃は防げないだろ? 攻撃表示に変更した【首なしの騎士】で【聖なる魔術師】を攻撃だ」

尽きることなく出てくる新たなモンスター。 一体バクラのデッキにはモンスターカードが何枚入っているんだろうか。 攻撃力は然程高くはないのがまだ救いだが、ネクロフィア召喚の為にしても数が多い気がする。

「安心するにはまだ早いぜ。永続魔法【エクトプラズマー】発動!! プレイヤーは互いのエンドフェイズ、自分フィールド上の表表示モンスターを生贄に捧げ、元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与えることが出来る」
「それって、バクラだけじゃなくて私も使えるってこと?」
「そうなるな。しかし【エクトプラズマー】は生贄に出来るモンスターが存在する限り、エンドフェイズ時に必ず発動しなくてはいけない。これがどういうことか分かるか?」

私の場にモンスターは闇紅だけ、しかも手札は0枚。 次のターン、モンスターが召喚出来なければエンドフェイズに闇紅を生贄にしなくてはいけなくなる。 それは次のバクラのターンで勝負は決まることを意味している。

「さぁて、オレはターンを終了するぜ。そして、キラードールを生贄に捧げる」
「私のターン……」

まさか1ターンで此処まで追い詰められるとは思ってなかった。 モンスターが多いのは、【エクトプラズマー】の生贄の為でもあったというわけだ。 【エクトプラズマー】の発動で闇紅の攻撃力は3000まで上がった。 闇紅で【首なし騎士】を攻撃し、【エクトプラズマー】を発動してもバクラのLPを0にすることは出来ない。 場の伏せている【マジシャンス・サークル】を発動して、攻撃力2000以下の魔法使い族モンスターを特殊召喚したとしても、結果は変わらない。 デッキにはもうこの状況を引っくり返すカードは、無い。 あるとしたら、そう――

「私はこのターン、ドローをしない」
「はっ、僅かな勝機すら自らの手で捨て去るつもりか?」
「可能性はデッキだけにあるわけじゃない。デッキからカードをドローする代わりに、墓地から【マジックブラスト】を手札に加える」

【死者への手向け】の発動コストとして墓地に送った【マジックブラスト】の効果。 通常ドローの代わりに、このカードを手札に加えることが出来る。 バクラの魔法・罠カードゾーンにあるのは【エクトプラズマー】だけ。 大丈夫、いける。

「まずは闇紅で【首なしの騎士】に攻撃! そしてこの瞬間、罠カード【マジシャンズ・サークル】を発動。魔法使い族モンスターの攻撃宣言時に、お互いのプレイヤーは自分のデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚することが出来る」
「このタイミングで特殊召喚……だと!?」
「バクラもデッキから特殊召喚して良いよ。魔法使い族が居ればだけど」
「ちっ、オレのデッキには魔法使い族はねぇ」
「それじゃあ私は、デッキから【連弾の魔術師<☆4 1600/1200>】を特殊召喚!! 闇紅の攻撃は続行、【首なしの騎士】を破壊」
「まさか回収した魔法カードを使い忘れたわけじゃねぇよな。オレのLPはまだ残ってるぜ?」

バクラの言う通り、【マジックブラスト】を発動すれば闇紅の攻撃力を3300に上がった。 でも、それでは足りないのだ。 エンドフェイズに【エクトプラズマー】の効果を使っても、バクラのLPを0には出来ない。 その足りない分を補う為には、【連弾の魔術師】が必要だった。 2枚のカードは合わせて使うことで、その威力を増すから。

「悪いけど、バクラに次のターンは来ないよ! バトルフェイズを終了して、メインフェイズ2に移行。そして手札から【マジックブラスト】を発動。自分の場にいる魔法使い族の数×200のダメージを与える。  更に、【連弾の魔術師】のモンスター効果をチェーン発動する!! 【連弾の魔術師】は通常魔法カードを発動する度に、相手に400のダメージを与えることが出来る。よって、バクラに合計800のダメージ!!」
「く……それでも、オレ様のLPは尽きちゃいない。だが、お前はもうエンド宣言をするしかない筈だ」
「そうだね。けど今は、エンド宣言によって更にダメージが与えることが出来るんだったよね? 【連弾の魔術師】を生贄に、【エクトプラズマー】発動!バクラに800のダメージ!!」

【闇紅の魔術師】は墓地に行くことなく、ターンを終える。 そして同時に、バクラのLPは0になった。


◆◆◆


「やった! 私の勝ち、だね」
「まさかあの状況で墓地から回収出来る魔法カードとはな。ちっ、仕方ねぇ。約束通り宿主サマと代わってやるよ」

あっさりと負けを認めてくれたバクラを、思わずぽかんと見返してしまう。 だって何か色々と言い訳めいたことを言って、破るかと思っていたから。 いや、約束を守ると見せ掛けてやっぱり破るんじゃ? と疑っていたら、フィールドを越えて伸ばされた手によってびしり弾かれた。

「せっかくこのオレ様が約束を守ってやろうって言ってるのに、なに間抜け面晒してやがる」
「だって約束守ってくれるのが、意外だったから……ていうか、間抜け面って失礼な」
「別に、お前がそっちの方が良いってんなら、オレはお望み通り破ってやっても良いんだぜ?」
「いやいやバクラ、私はいつだって約束は守るべきものだと推奨してるよ」
「それならつべこべ言わず、有り難く受け取っておけ」

弾いて伸ばした指そのままに、びしっと顔に指を向けられる。 その仕草が妙に似合っていて、一瞬見惚れてしまった。 口調は悪いが、顔はイケメン美少年の了と同じなのだから、仕方ない。 何だかんだ言っても、バクラは私との約束を守ってくれようとしている。 それに今の決闘中も、ただ純粋にゲームを楽しんでいるように感じられた。 やっぱり、私には彼が悪い人であるとはどうしても思えないよ、
だから、きっと後で彼に物凄く怒られるだろうと分かっていても、私はそれを口に出してしまった。 もう少しだけ、バクラと居たかったから。

「……あのさ、バクラ」
「なんだよ、まだ何かあんのか?」
「えーとね、約束は極力守るべきものだとは思うけど、でも、時には守らなくても良い場合もあると思うんだよね。例えば、勝者が別のことを望んだ場合とか」
「はぁ? 周りくどいこと言ってねぇで、はっきり言え」
「つまり! 別に了と代わらなくても良いよってこと」

これには流石のバクラも驚いたらしく、その眼を僅かに見開いていた。

!!』

あぁ、やっぱり怒っている。 バクラに気付かれるのを恐れてか、此処に来てからはずっと心の部屋の中に居るの声が聞こえた。 それを「ごめんね」という言葉と共に無理矢理閉じ込める。 絶対に危ないことにはならないから、バクラは『私』を傷付けたりなんてしない。

「……本気か?」
「本気に決まってるでしょ。そうだね、せっかく決闘に勝ったんだし、条件としてこの前の話の続きは聞かないってことにしようか。それならどう?」
「どうって、決めるのはお前だろうが。宿主と代わるって条件はお前が出したもんだ、それを変えるのもお前の勝手だろ。さっきまで喚いてたシュークリームは良いのかよ?」
「んー海馬くんのお抱えシェフのが食べたかったら、モクバにでもお願いしたら何とかなりそうだしね。それよりも、今の私はバクラと話がしたい」
「オレ様は、お前の敵かもしれないんだぜ?」
「私はまだ誰の味方でも無いし、誰の敵でも無い。だから……バクラの敵でも無いよ」

千年アイテムのこと、三千年前のこと、王様のこと、彼自身のこと、そして私のこと。 は大事なことは教えてくれない。 だから三千年前のことは関係ない、何も知らないから。 それが今の私の結論。 これは、助けになりたいのに何も教えてくれないへのささやかな反抗でもあった。
互いに視線は揺らがない。 今ここで視線を逸らしてはいけない、と本能的に悟っていた。 数秒だったのかもしれない、でも数十秒にも感じられる時間は、バクラがふっと笑みを零したことで終わりを迎える。 直ぐにいつもの表情に戻ってしまったので見間違いかもしないが、一瞬見えたそれは何かを慈しむような感じだった。

「お前がそこまで決めてるなら、構わねぇよ」
「よし、じゃあ交渉成立ってことで。とりあえず、もっかい決闘しようよ。大会に向けてデッキ調整したは良いけど、今の決闘で色々と弱点が見えてきたからさ」
「……はぁ、気が済むまで付き合えば良いんだな?」
「そう! 話が分かるね、バクラ。遊戯達だと手の内バレちゃうから頼めないし、バクラは大会参加しないでしょ?」
「宿主がしねぇならな。つーかお前は決闘がしたかっただけか」
「それもあるけど、決闘を通しての方がバクラのことが良く分かるかなって。プレイイングはその人の心が表れるって言うからね」
「莫迦か」
「ちょ、それは地味に痛いから止めて……っ!!」



閉じた世界で思う。
また同じ道を選んでしまうのだろうか。
その先には、身を切り裂く痛みと哀しみしか無いのに。
俺はまた、彼女に何もしてやれないのか。

全てを知る傍観者に許されたのは、進み始めた物語を見守ることだけ。