11.自称エスパー少年登場
「1200円になります」
「あ、直ぐに使うんで、タグ外して下さい」
「はい。お買い上げ、有難う御座いました」
営業スマイル満点の店員さんに見送られて店から出ると直ぐに購入した帽子を被る。
背に腹はかえられないとは言え、親からの仕送りで生活してる学生には想定外の痛い出費だった。
領収書はしっかり貰ってきたので後で社長に請求しようと思う。
会社の経費で落ちなくとも、この程度なら社長のポケットマネーには安いものだろう。
まさか支払い拒否なんてことはしない筈だ。例え断ったとしても払わせるけど。
「さて、これからどうしよっかな」
帽子で多少は顔が隠れていること、先程晒された写真は制服だったことから、一目で私だと気付かれることは無いと思う。
ある程度は自由が効くということだ。
社長の説明によれば、私との決闘で負けても相手はパズルカードを失わないらしい。
私がパズルカードを何枚も持っていたら、それだけ決勝進出者の人数が減ってしまうことになるからだとか。
しかし、私が負けた場合には相手のパズルカードと交換することになる為、パズルカードを所持していない者は私に勝負を挑めないということになっている。
アンティルールは勿論適用される。が、正直誰かの大切なカードを奪うというのはあまり気が進まない。
ぶっちゃけ、私には決闘によって生じるメリットはほとんど無いというわけだ。
それでも、この大会に参加したそもそもの理由『より多くの決闘者と闘いたい』というのは一応達成出来るかもしれないけど――
「あんまり多過ぎるってのは、考えものだよね」
下手すると参加者の半数と対戦することになるんじゃないだろうか?
手の内がバレる所の騒ぎじゃない、今後の大会にだって支障が出かねない。
『とりあえず、お前の実力を示してやれば良いんじゃないか? そうすれば、自然と挑んでくる奴達もそれ相応の力を持つ者だけになる』
「つまり、女だと思って舐めて掛かってきてる連中に思い知らせてやれと」
『そういうことだな。なら得意だろう?』
「ちょ、人が弱い者いじめ好きみたいに言わないでよ! そんなことないからね!?」
別に好きなわけじゃない。
ただ、相手フィールドがら空きでモンスター総攻撃時に、攻撃力低い方から攻撃宣言してフルボッコと言う名のオーバーキルをする位だ。
全然弱い者いじめじゃない、と思う。
『まぁ、どっちでもいいがな。力を示す為には決闘をする必要がある、適当にその辺りに居るのを捕まえろ』
「どっちでも良くないから!しかも凄い投げやりだし」
『元より逃げ回るつもりは無かったんだろう? 溜まったストレスを晴らすにも丁度良いと思うぞ』
「あ、気付いてたんだ。だとしても、八つ当たりは流石に悪いような……」
『見ず知らずの奴に気を遣ってやることはない』
は時々こんな風に不穏なことを言う。
普段は冷静で私が気付かないようなことを指摘してくれたりするのに。
でも、実はこっちの方が素なんじゃないかと私は思ってたりする。
だって何か生き生きしてるし。
でもの言う通り、逃げ回るつもりは最初から無い。
そんなことをしたら何の為に大会に参加したのか分からないから。
だから、一先ず誰かと闘う必要があるのは確かだろう。
問題はその相手だ。
あまりに弱い相手では、力を示すことは出来ない。
それなりに強いけど、勝率が8割を越えるような相手がベストだと言える。
いくら決闘盤で決闘者の判別が可能だからと言っても、そんな都合の良い相手が簡単に見付かるとは思えない。
「強い相手なら見付け易いのになぁ。でもそういう人は私に挑んで来ないだろうし」
『それ程までに強者と闘いたいならば、王に挑めば良い。その場合は間違いなく初戦敗退に終わることになるがな』
「はいはい、分かってるよ。大人しくこの辺りの決闘者でも探しに行くって」
此処でじっとしていても何も進まない。
決闘している所を見れば、その実力も分かるだろう。
帽子を目深に被り直すと、大通りの方へ向かう。
他の決闘者に遅れること5分。
私は闘いの場へと身を投じた。
「君が此処に来ることは分かっていたよ、さん」
対戦者を探し始めてから数分、私は変な人間に遭遇した。
横に居るにどうしようかという意味を込めて視線を送ると、無言で頷かれる。
どうやら考えたことは同じだったらしい。
『何も見なかったし何も聞かなかったことにして、来た道を引き返す。』
いきなり良く分からないことを言って話し掛けてくるような人を相手にする必要は無いということだ。
それを実行に移そうとその人物に背を向けた所で、腕を掴まれて動きを止められる。
「離して。見ず知らずの人間に触られるのは嫌いなんだ」
「君がボクと決闘してくれるというなら、この手を離そうじゃないか」
「生憎だけど、君みたいな人と決闘するのは遠慮させて貰うよ」
「逃げるのかい? 特殊なパズルカードを持っているとは言え、君のような女性が決勝に残るにはそれが最良の手段であることは確かだけれどね」
挑発だということは分かっていた。
けれども、このまま立ち去ればそれを肯定することになってしまう。
それにこの少年が私の名前をフルネームで言ってくれた御蔭で、周りには決闘者が集まって来ていた。
例え少年との決闘を断ったところで、直ぐにまた誰かに決闘を挑まれることになるだろう。
せっかく見付からないようにしていたというのに、これでは台無しだ。
こうなってしまったからには、仕方ない、か。
「分かった、その安い挑発に乗ってあげる。だからさっさと離してくれる」
「良いだろう。ボクの名前はエスパー絽場だ、よろしく」
「エスパー……?」
まさか本名では無いだろう。だとしても、自分でエスパーとか言っちゃうのはどうかと思う。
出会った瞬間から何となく察してはいたけど、コイツ……電波だ。
「そうさ、ボクには超能力があってね。君が此処に現れることも、超能力で予知したのさ」
「それじゃあ、始める前にアンティルールの確認でもしておこうか」
彼の言葉を故意にスルーして私は話を進めることにした。
アンティルールを適用するつもりは無いけど、電波に真面目に付き合うつもりも無い。
某幼馴染様で電波に耐性があるとは言え、聞かずに済むならそれに越したことはないのだ。
「ふん、ボクの能力を甘く見て後悔するのはそっちだよ」
「私は【闇より出でし絶望<☆8 2800/3000>】を賭ける。君はどうするの?」
「く……ボクは【人造人間−サイコショッカー<☆6 2400/1500>】を賭ける」
「了解。パズルカードについては言うまでも無いね、どうやら君も特殊パズルカード狙いみたいだし」
どうやら彼はよっぽど自分の超能力について語りたいようだが、私は全力で無視を続けさせて貰う。
アンティカードの闇より出でしの基本ステータスは闇紅よりも上だが、重要性で言うならば後者の方が私にとっては上だった。
もしもあのカードを失ってしまったら大会を続けることは出来なくなる。
だからと言って闇より出でしが要らない子なわけでは無いし、そもそも全ては『もしも負けたら』の話だ。
「さて、これで準備は整ったね」
「ピピピ……ボ・ク・ハ・勝ツ」
特殊パズルカードを賭けた決闘とあって、大勢のギャラリーが集まっている。
最初の予定とは変わってしまったけど、これは私の実力を知らしめすには良い機会なのかもしれない。
彼には悪いけど、見せしめになって貰おうかな。
それと、ついでに証明してあげよう。
超能力なんてあるわけ無い。
例え本当にあったとしても、そんなものは無力なんだってことを。