ジャンケンの結果、先攻は私になった。それからお互いに距離を取って、決闘盤のソリッドビジョンシステムを射出する。ある程度の操作については事前に確認しておいたとは言え、実際の決闘でやってみる驚きはまた別の物だ。相当にお金が掛かっていそうなハイテク機械であることは分かっていたけれど、これを大会参加者に無料で贈呈しても採算の取れるKCを改めて凄いと思う。
『
、集中しろ』
余計なことを考えていたのがバレていたらしい。しかし、
に言われるまでもない。周りのギャラリーを蹴散らす為にも、この第一戦は私にとって重要なものだ。負けるわけにはいかないし、勿論そんなつもりは微塵も無い。気持ちを切り替える為に、眼を閉じて深呼吸をする。眼を開いた時には思考はクリアになっていた。頭にあるのは今この瞬間の決闘のことだけだ。
「いくよ。私の先攻、ドロー!」
手札は……悪くない。攻守どちらの戦略を取っても、それなりの展開を迎えることが出来るだろう。相手がどのようなタイプのデッキであるか分からない以上、戦略の決定は慎重に行うべきだろう。攻撃表示にするか、守備表示にするか。
「ピピピ……宇宙のエネルギーを感じる」
私がどのモンスターを召喚するか考えていると、目の前の対戦者が唐突に変なことを始めた。……うっわぁ、本物の電波が目の前に居るよ。わざわざ反応してあげる気はさらさらないので、見なかったことにして自分の手札へと意識を集中させる。
「召喚するモンスターだけど、手札の左から2枚目の【ヂェミナイ・エルフ】辺りが良いと思うよ」
どうやら強制的に無視してはいられない状況にしてくれるらしい。彼の言う通り、左から2枚目のカードは【ヂェミナイ・エルフ】だ。手札を正確に当てられたことで、多少動揺するのかもしれない。事実、ギャラリーの何人かは驚いた反応を見せていた。それが彼の狙いでもあるのだろう。でも、生憎と私はその程度のことで動揺したりしない人間なのだ。
「アドバイスどうもありがとう。モンスターを裏守備表示でセット、更にリバースカードを1枚伏せる。ターンエンドだよ」
言われた通りに【ヂェミナイ・エルフ】を召喚するのは癪なので、敢えて別のモンスターを守備表示で召喚する。それもまた少し誘導されたような形で腹立たしいが、唯々諾々と従うよりはまだマシだ。それにレベル4以下で攻撃力1900というのはかなり重宝するので、言われた通りにしてしまって今の段階で破壊されるのは遠慮したい。
「ふーん。違うモンスターを召喚したようだね」
決闘盤にセットする際に手札のどの位置から抜いたかは分からないようにしたつもりだったけど、そこまで分かるのか。まぁ、手札が分かっていようと対抗手段が無ければ意味は無いんだけど。さて、自称エスパー少年はどう来るかな。
「僕のターン! 【魔導紳士−J<☆4 1500/1600>】を召喚し、裏守備モンスターを攻撃!!」
甘いな。高々攻撃力1500のモンスターで攻撃宣言してきたこともそうだが、何よりも攻撃力が1900もあるヂェミナイではなく敢えてその代わりに召喚したモンスターが通常モンスターのわけがないということに気付かないということが。
「【スフィア・ボム 球体時限爆弾<☆4 1400/1400>】の効果発動! 裏守備表示のこのカードが攻撃された際、このカードは敵モンスターの装備カードになる」
「装備カードになったから何だと言うんだい?」
「ただ装備になるわけないでしょ。このカードが装備されたカードは次の相手ターンのスタンバイフェイズに破壊され、その際に装備モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与えることが出来る」
【魔導紳士−J】の攻撃力は1500だから、当然LPへのダメージも1500。労せずしてダイレクトアタックを同じ分のダメージを与えることが出来る便利なカードだ。装備カードとなることからその扱いは魔法・罠カードと同様になり、破壊するにはサイクロンなどが必要となる。現時点で手札にその手のカードが無ければ、これを回避するのはかなり難しいだろう。
「っく、リバースカード2枚セットして、ターン終了だ」
案の定と言えばそうだけど何も出来ずにエンド宣言しちゃうか。自分でやっておきながら何だけど、少しは期待してたんだけどなぁ。これくらい回避出来ないとこの大会ではやっていけないと思うのは、私の考え過ぎだろうか。何はともあれ、これで時限爆弾は次の彼のターンの始まりに必ず発動する。
「私のターン、ドロー!」
「交信、ピピ……君は罠カード【血の代償】を引いたね」
「2ターン目にして早々に私の策に嵌ったのにまだ続けるんだ、それ。いや、絽場くんがやりたいなら別に止めはしないけど、私には意味ないよ?」
カードはまたしても当たっていたわけだけど、そんなことは割りとどうでも良かったりする。当たっていようと私は動揺しないし、こちらの戦術に対処出来なければ意味なんて無いに等しいのだから。そういえば舞さんも昔やってたなぁ、こういうこと。カードにそれぞれ違う香水をつけて、匂いで当てるっていうの。あれは自分のデッキだから出来たことだし、勝手に相手が動揺していただけだから特に舞さんが不正をしたわけでもない。シャッフルしてる時は匂いが混ざって、どれかを意図的に上に持ってくるなんてことは出来なかったと聞いている。何にせよ、こういうのはトリックに決まっている。
「モンスターを裏守備でセット、カードを1枚セットしてターンエンド。時限爆弾をなるべく引き伸ばしてあげたいところだけど他にやることないし、ごめんね?」
などと全く思ってもいないことをのたまいつつ、私はターンを終了する。そもそも引き伸ばすと言っても、私のターンに時間を掛けるくらいしか出来ないのだし。その私のターンをあっさり終わらせたわけだけど。
このターン、【ヂェミナイ・エルフ】を召喚しなかったのには訳がある。次のターンでの破壊が決定しているとは言え、フィールド上に存在する限りは攻撃対象と成り得る。【ヂェミナイ・エルフ】で【魔導紳士−J】を攻撃するよりも【スフィア・ボム】で破壊した方がダメージは大きい。ダイレクトアタックが出来るとなれば話は別だが、そうでないのならば取り立てて召喚する必要もない。それに今は手札に上級モンスターも居ないから、フィールドにモンスターを揃える必要も無い。攻撃が必要な状況になれば、召喚すれば良いと判断したわけだ。
「エンド宣言と同時に、魔法カード【催眠術】を発動! 次の君のターン、モンスターの表示形式の変更を行うことは出来ない」
悪いけど、だから何? と言いたい。守備表示で召喚したものをわざわざ攻撃表示にしようとは思ってはいない。基本的にリバース効果を持つものを裏守備表示で召喚することは多いが、そのほとんどが敢えて反転召喚をせずとも攻撃対象にされた場合に発動する。破壊されて墓地に行くことになろうと、効果が発動しさえすれば良いのだ。だから彼のこの発動は全く意味を成さないものであるのだけど、それにしてもこの魔法カード、どういう時に使えば良いんだろう。使い所がさっぱり分からない。
「僕のターン、ドロー!!」
「残念、時間だよ。【スフィア・ボム】と【魔導紳士−J】を共に破壊、絽場くんに1500ダメージ!」
「まだ勝負は始まったばかりだ! 僕は【サイバー・レイダー<☆4 1400/1000>】を召喚する」
まさか莫迦の一つ覚えみたいに攻撃してきたりはしない、と思いたい。私が伏せたカードの守備力は【サイバー・レイダー】より高いから、攻撃してもダメージを受けるのは向こうだし。しかし、なんでわざわざ攻撃表示にするんだろうか。私なら、少なくとも攻撃力1600以上のモンスターでなければ攻撃表示にはしない。伏せカードは気になるけど、攻撃を誘っているようにも見えないし……謎だ。
「リバースカードを1枚セットして、ターン終了だ」
流石にこのターンは攻撃してこなかったか。仮にも大会出場資格を得た決闘者なのだから、それくらいは考えてくれないと、こちらとしても面白味がなくてつまらない。せっかくの記念すべき第一戦なんだから、もっとわくわくさせてくれないと。
「私のターンだね。ドロー!」
『邪魔をして済まない、少し良いか? 後ろのビルに双眼鏡を持った子ども達が居る』
不意に
の声が割り込んできた。決闘中に彼が話し掛けてくるなんて珍しいこともあるものだと思ったけど、その話の内容から彼がそうしてきた理由は直ぐに分かった。成程ね、超能力の正体はそれってことか。心の中で
にありがとう、と伝えておく。
それにしたって、不正してまで勝つ意味は無いと思うんだけどなぁ、私は。嘘で固めた強さは、その鍍金が剥がれた時の反動がより大きなものとなってしまうのだから。ここでトリックを明かしても良いけど、それでは彼にとって意味が無いだろう。その存在を否定するのではなく、超能力――不正の無意味さを証明する。やっぱり私に出来ることは、開始前に決めたように不正しても勝てない相手居ることを教えてあげるくらいだろう。
「ピッピ……宇宙の力……」
「あのさ、手札が分かるのは良いけど、それは君の心に留めておいてよ。もう分かってるだろうけど、私は手札を読まれたからと言って動揺なんてしないからさ」
「……良いだろう。これから僕のサイキック・デッキの真の恐ろしさを教えてあげるよ」
一々それをやられたら、時間が掛かって勿体無いというのが本当の理由だったりする。不正しても勝てない相手が居ることを示す、と決めたからには益々もって負けるわけにはいかなくなったから。よし、これで静かに戦略を考えられる。
「私は更にモンスターを裏守備表示でセット。ターンエンド」
これで私の場にモンスターは2体、どちらも一癖ではいかないカードだ。さっきから裏守備表示でしか召喚していないのは、暫くはこちらから攻撃に出るつもりはないからだ。場にセットしてある2枚のカードも、使うのはまだ先になるだろう。
「僕のターン。手札より、魔法カード【記憶抹消】を発動! 君は手札をデッキに戻しシャッフルする。その後、同じ枚数だけドローするんだ」
手札入れ替えか。必要そうに思われた罠・魔法カードは全て伏せてあるし、大した問題は無いかな。攻撃力の高い【ヂェミナイ・エルフ】が手札から消えたのはちょっと残念だけど、それも先程裏守備で召喚したカードで何とかなると思う。
「【サイバー・レイダー】で裏守備表示モンスターを攻撃!」
なんだ、結局することは2ターン前と同じか。それなら前のターンでも攻撃して良かったんじゃないかな、と思ってしまう。上級モンスターが来ないのかもしれないけど、その場合も戦略もあって然るべきだよ。
「【サイバーポッド】のリバース効果発動。フィールド上の全てのモンスターを破壊し、お互いのデッキから5枚ドローする。その中にレベル4以下のモンスターが含まれていた場合、特殊召喚することが可能。さぁ、ドローしなよ。ちなみに引いたカードは全て公開して貰うから」
場に存在した3体のモンスターは全て破壊され、墓地に送られる。そして、それぞれ5枚のカードをデッキからドローした結果、場にはモンスターが3体召喚された。絽場くんは【人造人間7号<☆2 500/400>】と【エレキッズ<☆3 1000/500>】の2体、私は【D.D.アサイラント<☆4 1700/1500>】だ。残りのカードは全て手札に加えられている。場に居るモンスターの攻撃力は高くないけど、公開された時に見えた絽場くんの上級モンスターが気になる。確かアンティにしていたカードだったと思うので、それなりの能力を持ったモンスターであることは間違いない。
「待ちたまえ、僕のバトルフェイズはまだ終了していないよ」
「うん。まだすることがあるなら、どうぞ?」
彼の攻撃によって【サイバーポッド】の効果が発動したから、当然まだ彼のバトルフェイズ中だ。どちらのモンスターも【D.D.アサイラント】の攻撃力に劣るが、何をするつもりなんだろうか。
「攻撃力が低いからと侮っていただろう? 僕は【人造人間7号】の効果でプレイヤーにダイレクトアタックをする」
ダイレクトアタックの効果付きモンスターだったのか。でも、この手のモンスターの攻撃力は大概低いからそれほど大きなダメージにはならない。先ほど【サイバーポッド】の効果で墓地に送られた【髑髏顔 天道虫】の効果で、私のLPは1000回復している。今の攻撃で500のダメージを受けて、私のLPが8500。それに対して絽場くんは6500。有利であることに変わりはない。
「そして、このターン僕はまだモンスター召喚を行っていない」
彼のターンはまだ続く。どうやらメインフェイズ2を行うつもりらしい。
「よって僕は【エレキッズ】を生贄に捧げ、【人造人間−サイコ・ショッカー<☆6 2400/1500>】を召喚!!」
やっぱりきたか、上級モンスター! 攻撃力2400を凌ぐモンスターは手札には居ない。場に居る【D.D.アサイラント】は戦闘時に相手モンスターと自身を除外する効果があるけれど、次のターンで新たに召喚されたモンスターで攻撃されたらそれは使えない。サイポは相手ターンで発動させてはいけないとは良く言われるけど、確かにその通りかもしれない。でも、これで面白くなってきた。と思う余裕があるのでまだ大丈夫だ。
「これで僕はターン終了だ。さぁ君のターンだよ」
「私のターン!!」
ドローしたカードは【聖なるバリア―ミラーフォース】。攻撃宣言時に相手フィールド上の攻撃表示モンスターを全て破壊することが出来る罠カード、皆大好きミラフォだった。よし、これで次のターンの攻撃宣言時に【サイコ・ショッカー】を破壊することが出来る。
「【D.D.アサイラント】で【人造人間7号】を攻撃!!」
ミラフォが来たとは言え、もしものことを考えて【D.D.アサイラント】を守備表示にするか悩んだけど、ダイレクトアタックが可能な【人造人間7号】を破壊することにした。いくら攻撃力が500しか無いと言っても、何度も攻撃されるのは避けたいし。塵も積もれば何とやらというからね。
「そして、私はリバースカードを2枚セット」
「フフ、良いカードを引いたみたいだけど残念だったね。【サイコ・ショッカー】の特殊効果発動! このカードが場に表側表示で存在する限り、罠カードは発動できず場の全て罠カードの効果は無効になるのさ!」
「罠カードが全て無効!?」
「つまり、君が今伏せたカードも場に伏せてある罠カードも、全て発動することは出来ないということさ」
「くっ……ターンエンド」
ミラフォを封じられた。いや、それだけじゃない。現在私の場に伏せているカードは全て罠カード。つまりこれら全てが発動出来ないということになる。次のターン、【サイコ・ショッカー】が【D.D.アサイラント】を攻撃すれば状況は打開出来る。でも上手くいくとは限らない、何か他の手も考えておくべきだ。サイコ・ショッカーの効果は罠にしか適用されない、ならば魔法カードは発動することが出来るということだ。魔法カードならば【死者への手向け】などの効果破壊が使えるはずだ。
「僕のターン、ドロー!! 手札より、魔法カード【電脳増幅器】を発動! このカードによって僕は【サイコ・ショッカー】の効果の対象外になる」
自分のカードであるから当然対策もしてあるというわけか。これで彼は自由の罠カードを発動することが出来る。もしもデッキに効果無効系のカードがあるとすれば、【サイコ・ショッカー】を破壊することはますます難しくなる。
「更に、手札から【精神操作】を発動。【D.D.アサイラント】のコントロールを得る。ただし、このカードでコントロールを得たモンスターは攻撃もリリースも出来ない」
「つまり、私の場の壁を除外してダイレクトアタックしようってこと」
「そういうことさ。でもその前に、リバースカード【受け継がれる力】を発動! 【D.D.アサイラント】を墓地に送り、その攻撃力分【サイコ・ショッカー】の攻撃力をアップする。リリースは出来ないが墓地には送ることが出来るからね。この効果により、ターン終了時まで【サイコ・ショッカー】の攻撃力は4100になる!! さあ、ダイレクトアタックだ!!」
ソリッドビジョンだと分かっていても、【サイコ・ショッカー】のダイレクトアタックはまるで私自身が攻撃を受けたような衝撃があった。たった一撃で半分ものLPを削られたのだから、それも当然かもしれない。
「っつう、今のは効いたなぁ。単に超能力頼みってわけじゃないみたいだね」
「いつまでその虚勢が持つかな。無理だと思ったらサレンダーしてくれても構わないんだよ? ターンエンドだ」
「漸く面白くなってきたってのに、サレンダーは無いでしょう。私のターン、ドロー!」
引いたのは【お注射天使リリー】のカード。効果破壊形のカードでは無かった。サイポの効果で【コストダウン】は手札にあるものの、肝心の上級モンスターが手札にない。リリーも効果を使えば上級モンスターにも並ぶ攻撃力になるけど、私のLPは残り4400。【サイコ・ショッカー】の攻略が出来ていない今使うには、危険過ぎる。かと言って、このターンモンスターを召喚しなければ再びダイレクトアタックを受けることになってしまう。手札にあるモンスターカードはあと1枚。【見習い魔術師】のカードだ。効果は2つ。一つは魔力カウンター、そしてもう一方は――そうか、これで!!
「私はモンスターを1体裏守備表示で召喚して、ターンエンド」
「やはりサレンダーした方が良かったんじゃないかい? 【サイコ・ショッカー】を前にして手も足も出ないようだね」
「さぁ、まだまだ勝負は分からないよ」
「この決闘で勝利するのは僕だと未来は既に決まっているんだよ。僕のターン! 【魔鏡導師 リフレクト・バウンダー<☆4 1700/1000>】を召喚! 裏守備表示モンスターを攻撃だ」
攻撃力の高い方でダイレクトアタックをするために、まずは壁を破壊する。戦術としては基本的なものだろう。けど、この場合はそうじゃない。だって、そのカードを破壊して貰うことが私の目的なんだから。
「戦闘で破壊されたことで【見習い魔術師】の効果発動!! デッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を場にセットすることが出来る」
レベル2以下の魔法使い族モンスターはデッキにそう多くは入っていない。リリーはレベル3で効果適用外。この状況を覆せるモンスターが私のデッキに1体だけ居る。
「【執念深き老魔術師<☆2 450/600>】を場にセット!!」
「また壁モンスターかい? この場を凌いだところで、君の敗北は変わらないよ。まぁいい、その邪魔な壁モンスターを破壊しようじゃないか」
そう、そのまま攻撃をすれば良いんだよ。それで戦局は一変するから。
「【サイコ・ショッカー】で【執念深き老魔術師】を攻撃!!」
「攻撃対象となったこの瞬間、リバース効果発動!!」
「また効果モンスターか、今度は何の効果だい?」
「フィールド上の相手モンスターを1体破壊する」
「……なに!?」
「もっかい言おうか。フィールド上の相手モンスターを1体破壊するんだよ」
リバースによるモンスター破壊効果。見習い魔術師をセットした時点で、ここまでの流れは決定していた。そして、破壊するのは勿論――
「【人造人間−サイコ・ショッカー】を破壊する!」
「そんな、僕の予見にはこんなことは……」
「予見になかろうが、これが現実だよ。君の切り札は破壊された、それだけのこと」
「ターン終了だ……」
「君のエンド宣言の前に、私は罠カードを発動させて貰うよ。もう、サイコ・ショッカーは居ないわけだから可能だよね?」
罠カードの発動を封じていた、サイコ・ショッカーはもう場には居ない。これで場に伏せられているカードは全て使うことが出来る。1ターン前のダイレクトアタックで削られてしまったLPを回復するためにも、このカードだけは発動しておきたい。
「罠カード【神の恵み】を発動。ドローする毎に私のLPは500回復する」
これで絽場くんのモンスターは【リフレクト・バウンダー】のみ。どうやら効果モンスターみたいだけど、キーカードは破壊出来たのだから後は何とかなるだろう。
「私のターン、ドロー!! この瞬間、【神の恵み】の効果で私はLPを500回復する。重ねて手札から、【強欲の壷】を発動。カードを2枚ドローし、更にLP500回復」
これでLPは5400まで回復した。そして【強欲の壷】の効果で引いたカードは【死者への手向け】と【闇紅の魔導師】の2枚、エースモンスターである闇紅が漸く手札にきてくれた。こうなったら、後は一気に畳み掛けるだけだ。
「そろそろ終わりにしよう、この決闘。君に倣って私も予言しようか。君に次のターンは来ない」
「そんな未来、起こるわけがない。僕のLPはまだ5300もあるんだ」
「どうなるかは見てのお楽しみってことで。まずは手札より魔法カード【コストダウン】を発動。手札から1枚捨てることで、エンドフェイズまで手札の全てのモンスターのレベルを2つ下げる。この効果で、【闇紅の魔導師<☆4 1700/2200>】を生贄なしで通常召喚する!」
「攻撃力1700? それでは【リフレクト・バウンダー】を破壊することは出来ないよ。それに【リフレクト・バウンダー】には特殊効果があってね、攻撃表示のこのモンスターを相手モンスターが攻撃した場合、攻撃したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与えることが出来るのさ」
「わざわざどうも。でも、多分それ私には関係ないから。次に【死者への手向け】を発動。更に手札を1枚捨てることで、【リフレクト・バウンダー】を破壊する」
「なっ……僕のモンスターが……!」
「これで君の場にモンスターは居なくなった。ね、破壊されたら特殊効果も何もあったものじゃないでしょ」
さっきは来なかった【死者への手向け】がこのタイミングで来るなんてね。面倒そうな効果だった【リフレクト・バウンダー】が御蔭で破壊出来たので、結果オーライということにしておこう。
「まだまだいくよ。魔法カード【早すぎた埋葬】を発動。LPを800払い、このターンにコストとして墓地に捨てた【お注射天使リリー<☆3 400/1500>】を召喚」
「そんな低級モンスターを復活させて、どうしようっていうんだ」
「分かってないね、だから君は負けるんだよ。最後に、リバースカードオープン。罠カード【漆黒のパワーストーン】を発動! 魔力カウンターを一つ、【闇紅の魔導師】に乗せる」
私がこのターン何をしているのか彼には全く分かっていないだろう。私にとって、闇紅を召喚したらやることは一つ。魔力カウンターを溜めて、ひたすら闇紅の攻撃力を上げる。別にコストとしてリリーを捨てる必要はなかった。伏せカードの一つである【血の代償】を使えば、1ターンに複数回の通常召喚を行うことは可能である。ただ、どうせ【早すぎた埋葬】を使うことになるのなら、【血の代償】を使ってLPを減らすことはないと思ったのだ。
今の時点で私のLPは4200、絽場くんのLPは5300。両者共にまだ半分以上残っている。このターンで勝負を付けるなんて不可能、ギャラリーもそう思っているだろう。そんな不可能を可能にすれば、普通に勝つよりも更に私の実力が印象付けられる。そのために、多少無理してでもこのターンで終わらせられるようにカードを使いまくったのだから。
「さぁ、超能力なんてものの無意味さを証明してあげよう」
「君の場のモンスターの攻撃力の合計は僕のLPに到底及ばないはずだ!」
「そんな絽場くんのために、そしてギャラリーの皆さんのために説明してあげよう。【闇紅の魔導師】は魔法カードを発動する度に、魔力カウンターを溜めて攻撃力を上げることが出来る。今溜まっている魔力カウンターは5個。つまり、闇紅の魔導師の攻撃力は3200」
召喚時に2個、魔法カード発動によって2個、最後に【漆黒のパワーストーン】の効果で1個。
「ということで、まずは【闇紅の魔導師】でダイレクトアタック! これで残りのLPは2100だね。お次は【お注射天使リリー】の効果。リリーはLPを2000払うことで、攻撃力を3000上げることが出来るんだよ。さて、リリーの攻撃力は?」
「さ、3400……!?」
「正解」
まさか1ターンで攻撃力3000を越えるモンスターが2体も揃うなんて、誰も思いもしなかったことだろう。リリーなんて元の攻撃力は400だしね。
「残りは単純な引き算。LP2100を攻撃力3400のモンスターで攻撃すれば残りは? 【お注射天使リリー】でダイレクトアタック!!」
◆◆◆
開会式での社長へのあれこれのストレス発散もあって、最後は苛めのようなことになってしまった。まぁ、タイミング悪く話し掛けてきた自己責任ということで、仕方ないと思って欲しい。だって腕掴まれたし、結構根に持つタイプだし。全部で11ターン。LPはダイレクトアタックを一度受けてしまったせいでがっつり削られたけど、滑り出しは順調ってとこかな。
対戦が終わったことでソリッドビジョンも既に消えている。少し離れたところで、下を向いて項垂れている絽場くんの方へと歩みを進めた。近寄ってきた私がアンティカードを受け取りに来たと思ったのだろう。無言で彼は1枚のカードを差し出してきた。
「……ルールだ、君に【サイコ・ショッカー】をあげるよ」
「いや、別に要らないよ。最初から私はカードを貰うつもりはなかったし」
「何故だ……レアカードだぞ?」
「レアカードとか関係ないでしょ。決闘者が選び抜いてデッキに入れたカードなんだから。それぞれの思いが篭ったデッキからカードを貰おうなんて、私は思わない」
「そうか……君は強いな」
先程から絽場くんは一度も顔を上げない。負けたことがそんなにショックだったんだろうか。確かに勝負の前は割りと自信満々だったように思う。でも、私に負けたところで大会は終わりじゃないんだから。パズルカードが手元にある限り、むしろ彼の大会はこれからと言えるだろう。いつまでも塞ぎ込んでいても始まらない。
「私が強いと思うなら、それは絽場くんにまだ見えていないことがあるからだよ、きっと」
「見えていないこと?」
「そう。決闘は何のためにあるのか、何を思って闘うのか。もう一度、良く考えてみるといいと思う」
「僕は、弟達のために、見下されないように……」
「これ以上は私には何も言えない。ただ一つ言えるのは、超能力なんてものに頼っている限り、君は強くなれないということ。――不正も程々にね」
小さく肩が震えた。周りに聞こえないように小さく呟いた声は絽場くんにちゃんと届いたらしい。運営委員に報告をしてしまうのは容易い。でも、誰かに言われて止めるのではなくて、彼なりにきちんと理由を見つけて欲しいと思った。
「君に強さを教えてくれる人、この大会で会えると良いね。じゃあ、楽しかったよ。ありがとう」
周りを見渡すと、ギャラリーのほとんどが既に散っていた。残っている決闘者も遠巻きに見ているばかりで私に挑んでくる様子はない。
『目的は充分に果たせたようだな』
「そうだね。見ていたギャラリーが噂を広めてくれると猶の事、ありがたいんだけど」
そして出来ることならこの先は、私だと直ぐに気付かれないで済むと嬉しい。開始数分で気付かれるなんて、何のために帽子を買ったのやら。これで『は帽子を被っている』とか広まったら本末転倒なので、それだけは勘弁して欲しいと思う。かと言って、定期的に居場所を告知されるとあっては隠れていても埒が明かないので、
「次は何処に行こうかな」