13.課せられたこと
「罠発動 【聖なるバリア―ミラーフォース―】そして私のターン【ヂェミナイ・エルフ】でダイレクトアタック!!」
「くそっ、まさか負けるなんて……」
「女だからって舐めてかかるからだよ。それじゃ、楽しようとしないでちゃんと自力でパズルカード集めにいきなよ」

このバトル・シティをは順調に勝ち進んでいる。パズルカードを集めるという予選のルールが適用されないの場合には、勝ち『進む』という表現は適切ではないかもしれない。しかし大会が開始されてから既に5人と決闘をし、挑んできた相手が全員返り討ちにあっていることからも、が一度も敗北をしていないことは確かだった。海馬瀬人もそれを見越していたからこそ、を特殊パズルカードの持ち主として選んだのだろう。

「あー……もっと強い人と闘いたい!」
『さっきからそればかりだな』
「そりゃ言いたくもなるよ。だってその為に大会に参加したのに、さっきから手応えない相手ばっかり。最初の絽場くんが一番ましだったかもしれない」

どうやら一向に強くならない挑戦者達に大分退屈してきているらしい。の実力に関する噂は確実に広まっているだろうが、大会開始からまだ3時間弱しか経過していない。童実野町全域に散らばった決闘者全員にその噂が届くのは当分先のことになるだろう。まだ暫くは、安易な予選突破を目論むような輩しかの元にはやって来まい。

『そんなに強い相手と闘いたいなら、自分から挑んだらどうだ?』
「出来るならとっくにやってるよ。でも、どの人が強いか分からないんだから探しようがなくない?」
『これまでの大会で名の知れている人間を探せば良いだろう』
「そっか、その手があった! 流石だね」
『俺からしてみれば、こんな簡単なことにも思い付かないの頭が心配だ』
「はいはい、四角い頭を丸く出来なくて済みませんでした」

そう言いはしたものの、は頭が悪いというわけではない。ただ、一度何かに捉われてしまうとその考え方しか出来なくなってしまうというだけだ。結論の出たことを再度考えようとはしない。彼女の中ではそれはもう『終わったこと』として処理されているのだろう。だから、周りから見れば至極当然なことにも気付かない。

「それにしても、せっかく帽子まで買ったっていうのに何で私だって分かるんだろうね?」
『さぁな。はこういう服装で帽子を被っている、とか誰かが情報を流しているんじゃないか?』
「有り得ない。と言い切れないところが凄く嫌だ」

この理由も本来ならば考えるまでもないことだ。が思っている以上にこの大会に参加している女性の決闘者は少なく、必然的に決闘盤を付けて歩いている女性は目立つことになる。それに加えて、顔を隠すように帽子を被っていれば道行く人間の注目を集めるのも無理はない。顔を隠すよりも服を替えるべきだったのだ。スカートではなくジーンズにして、いっそ男装でもしてしまえばもっと上手く誤魔化せただろうに。
俺が指摘しなければ、この理由にが自分から気付くことはないだろう。そして俺はこのことをに教えるつもりはなかった。弱い者に絡まれたくない、もっと強い相手と闘いたいというの気持ちは十分に知っている。けれども、こうして衆人観衆の眼に留まっている限りは危険な目に合うことはないと保証出来るから。どんなに傍に居ようとも、実体を持たない俺にはが危険な目に合っていようと直ぐに助けることは出来ない。少しでも危険を減らし、安全を確保するには今の状態が一番良いのだ。口でいくら説明したところで理解はしないだろうし危険だと分かっていても大人しくはしていないだろう、はそういう人間だ。先日の獏良了との一件で嫌というほどに理解した。だから、こうして彼女自身にも気付かれないようにする以外にはその身を守る術がないのだ。 可能であるならば、本当はこの大会自体に参加はして欲しくなかった。この大会――バトル・シティはただの決闘大会ではない。あの石版とそして千年アイテムの所持者がこの町へと集っているのだ、まるで何かに引き合わされたかのように。偶然の一言で片付けるわけにはいかない、これは王の記憶を巡る三千年の闘いだ。恐らく海馬瀬人の言っていたレアカードとは3枚の神のカードだろう、神のカード無くして王の記憶は戻らない。何故ならば、神を扱えることこそがかの王の証だったのだから。

王よ……皆、貴方の還りを待っている。
そして何よりも、私は――

、急に黙っちゃってどうしたの?」
『……あぁ、微かではあったが千年アイテムの気配を感じたから探っていたんだ』
「ふーん。眉間に皺、寄ってる。集中するのも良いけど、難しい顔ばっかしてると跡残っちゃうよ」

に嘘は通じない。だからもこちらの解答が真実ではないことは分かっているはずだ。分かっていても追求しないのは、それが踏み込んではいけない領域だと彼女が感じたからなのだろう。がこちら側のこと、三千年前の事情について明確な線引きをしていることは知っている。俺が話そうとしない部分については決して踏み込もうとはせず、常に一歩引いて受け止める。唯一の例外と言えるのは『』自身のことについてくらいなものだ。それだっていつまでも隠してはおくことは出来ないし、いずれ話さなくてはならない時が来る。本当に彼女のためを思うのならば、それこそ手遅れになる前に話さなくてはいけないことなのだろう。けれども今はまだ、何も知らないままで居て欲しい。このまま何も知らないままで居ることは決して叶わないのならば、せめて少しでも長く過去に捕らわれることなく今を過ごして欲しいと思うのだ。

『分かった、気を付けよう』

踏み込んでこないその優しさを大切にしたいから、今はまだこの微温湯のような関係を続けていく。俺が微かに笑えば、それに応えるようには満面の笑顔を向けてくれた。

あとどれくらい、この笑顔を見ていられるだろうか。いつまで、彼女はこの笑顔を俺に向けてくれるだろうか。例えこの笑顔が俺に向けられることがなくなろうとも、何としても守りたいと思う。今度こそ俺が守る。近くに居れば居るほどその思いは強くなるのを感じていた。左右の天秤がどちらに傾くのか、問われるまでもなく答えは出ているはずだと。未来永劫変わるはずがないことは此処に居るお前自身が誰よりも良く知っているくせにと、心の何処かで冷めた考えを持つ自分が居ることからは目を逸らしながら。

「あっ!」
『どうした?』
「……お腹が空いた」
『そういえば今日の朝食は早かったからな。昼時には少し早いが、むしろ空いているから好都合だろう』
「うん、そうしようかな。強い相手探すのはご飯食べてからにしようっと」

そうと決まれば、とは楽しそうな足取りで店を探し出す。一人暮らしということもあって普段は節約重視で滅多に外食をしないから、色々と目移りをしているようだった。その姿を後ろから眺めながら、俺は今度こそ本当に千年アイテムの気配を感じていた。ここからそう遠くはない場所に千年パズルと千年ロッドがある、この微弱な気配からするとロッドの方は本体でなく媒体、能力を使って操作しているだけだろう。気配の大まかな位置を把握すると集中を切る。今はまだ良い、王ならば必ず決勝に残るであろうから。王の助けにはなりたいが俺はあまりに知り過ぎている。時期を見誤れば、これまでの全てが無に帰すだろう。だから今は千年アイテムの気配がした位置からは逆の方向へと、気付かれない程度にを誘導する。



私は傍観者。
かの王の物語を見届けるための存在。
ただそのために此処にあり、それ以上でもそれ以下でもない。
決して己が役目を忘れてはならない。