15.請求書の名義は海馬瀬人で
 お昼の一件の際に相手の少年から聞き出した情報を受けて、私は梶木漁太と闘うために童実野水族館へと向かった。その間に決闘を挑んでくる相手が一人も居なかったのは、先ほどの決闘が多少なりともデモンストレーションとしての効果を果たしているからかもしれない。予選終了時間のアナウンスはなかったが日を跨ぐことはないと思われるため、よく見積もって日没頃18時〜19時の間と見て間違いない。お昼時を過ぎたことを考えれば残された時間は多くない。一発逆転の手である特殊パズルカードを狙うのではなく、地道にカード集めるという方法に切り替える者が出てもおかしくはない。終了時間が迫ればまた挑戦者は増えるかもしれないが、今はそのことは考えないようにする。
 辿り着いた童実野水族館。当然ながら入るには入場料がかかるわけで。

「分かっていた、いや分かっていたけどね!」

『決闘盤つけてたらフリーパス』なんて美味しい展開があるわけもない。いくら童実野町がKCの城下町でも、そこまで根回しはしていないというわけか。そもそもデュエル大会中にわざわざ水族館に入ろうという発想がおかしいが、それも梶木漁太なら納得してしまえるところがあった。とは言っても2000円、高校生の出費額としては結構大きいと思う。学生割引が効かないのも痛い。

「ま、後でまとめて海馬に請求すれば良い話だよね」

早々に海馬に払わせることを決めると、受付でチケットを買って館内へと入る。その後ろ姿を見ながら、『その内、大会中の食費とか交通費まで請求しそうだな』とが考えていたことなんて私は知らなかった。



「水族館って久しぶりに来たかも、一度行った所に繰り返し行くほど魚が好きってわけじゃないし」

この童実野水族館には1年前に来たことがある。学校の行事で来たから、その時はじっくりと見ることは出来なかった覚えがあるが、機会もなかったため改めて来るようとは思わなかった。思い返してみれば、時間が決まっていたからショーなどは結局見れなかったような気がする。

「……ショー見たいな」
『暁、何の為に水族館まで来たのか考えろ』
「決闘の為、でしょ。分かってるけど思い出しちゃったら俄然見たくなったというか。ほら、シャチのショーって珍しいし! あの子達って小さかったら鯨も食べる肉食だし、イルカとは違うんだよ?」
『食べるものが違うならどうだと言うんだ』
「トレーナーの人がうっかり☆なんて事故があるかも! 」

血塗れになったプールなんて誰も見たくない、絶対に。子どもだったらトラウマになるレベルの出来事だろう。そんな理由でショーを見に来られては堪ったものではない。

『恐ろしい期待を持って見るな、周りが迷惑だ』
「えー、一日中熱帯魚の水槽を眺めたい。なんてアクアリストみたいなこと言ってるわけじゃないんだし」
『アクアリストなんて変人と比較するな、対象として間違ってる。それにそれとこれとは話が別だろう』
「じゃあ10分だけ! それなら良いでしょ?」
『良いも何も、この大会に参加したのはの意思だ。決闘者と闘いたいというのも同じ。俺に指図する権利はない』
「よし、それなら見に行こう! も見て面白いと思うよ?」

からもお許しが出たので、スキップでもしそうなテンションで私はスタジアムへと向かった。端から見ればシャチのショーが楽しみで仕方ない、といったように見えるはずだ。内心でトレーナーの悲劇に期待しているなんてことは、後ろから苦笑を浮かべながらついてくるしか知らないことだった。

「着いた!此処がスタジアムか、空いてる席はっと」

通り道にあった水槽の前で度々立ち止まり、眺めていたせいでスタジアムに着く頃には入場してからそれなりの時間が経っていた。枚数制限のあるパズルカードを6枚集める必要がない私は基本的に時間に余裕がある。気にしなければいけない時間と言えば、予選終了の30分前になってから。せっかくお金を払って入場した水族館を、ゆっくりと見て回っていても問題はあまりなかったりする。そういえば海馬が2時間毎に私の居場所を知らせるとか言っていた気がするけれども、それもお昼にあれだけ派手にやったので当分は挑まれることはないであろうことはここまでの道中でも証明済である。しばらくはゆっくりと過ごせそうだった。そう思うと気持ちも緩んでくるわけで

「いっそ、時間までずっと水族館に居ようかなぁ」
『全く……決闘はどうした』
「ん? 何か言った?」
『いや、何も』

そもそも入場料も海馬瀬人に請求するなら関係ないんじゃないか。とが言ったような気がしたけど、席を探していて聞こえなかったということにさせてもらった。なるべくならば見えやすい席に座りたいため、きょろきょろと辺りを探しながら歩いていたところで、最前列に見覚えのある顔を見付ける。

「あー梶木だ」
「お前は、!? なんでお前がここに居るんじゃ?」
「それは……そう、梶木漁太、貴方と闘うためだよ!」

本人に会って、ここにきた本来の目的を思い出した。さっきまではゆっくりと水族館を満喫することで頭がいっぱいだったが、それはそれこれはこれだ。既に思考は決闘者のものへと変わっており、魚を見ていた時よりもわくわくしていることが自分でも分かった。

「へ! 悪いが、オレは特殊パズルカードに興味ないぜよ。他をあたるんじゃのー」
「それは奇遇だね、私もこのパズルカード狙ってくる奴に興味はないよ。強い人と闘いたい、それだけ」
「それで、オレに白羽の矢が立ったっちゅうわけか」

最初は興味なさげであった梶木も話を聞いて目の色が変わった。偶然現れたわけではなく、自分と闘おうと来た相手。しかも自分を強敵と見なして来たならば、梶木だって悪い気はしないはずだ。ここで逃げたりはしないだろう。

「どうやら闘ってくれる気になったみたいだね」
「女だからって手加減はせん、全力でいくぜよ」
「始める前に決めておきたいんだけど、パズルカードはどうする?」
「最初に言ったように、オレはお前のパズルカードに興味はないからいらんなー」
「ということはアンティの取り決めだけしておこうか。私は【闇より出でし絶望<☆8 2800/3000>】」
「オレは【要塞クジラ<☆7 2350/2150>】じゃあ!」

梶木はペガサス主催のあの王国の参加者、今までの挑戦者よりは手強いに違いない。油断してかかれば足元を掬われることになるかもしれない。そう考えると気持ちが高ぶってくる。さて、これまでの分もめいっぱい楽しませてもらおうかな。

「「決闘!!」」