今までの挑まれてきた決闘とは違い、今回は自分で申し入れた決闘。どんな相手であっても決闘することそれ自体は楽しい。それでも、より強い相手と闘ってみたいと思うのは決闘者であれば誰でも持ち合わせている気持ちから来るものだ。この梶木との一戦は、その気持ちから生まれた決闘。だから今は、私はとてもわくわくしていた。
「私の先攻、ドロー! 手札より、魔法カード【強欲な壷】を発動! 更に2枚ドローするよ」
「なんじゃ、早速手札が悪いのか?」
「さぁね。私は、モンスターを裏守備でセット、リバースカードを2枚伏せてターンエンド」
別に手札が悪いわけじゃないが攻撃力の高いモンスターがいないのだ。今は手元に魔力カウンターを溜める必要のあるモンスターも居ない、とりあえず壺を使ってしまうのは悪い判断ではないはずだ。まぁ手札抹殺とか使われたら厄介なのだけれども、そうなった時のために墓地にあって効果を発揮できるカードも入れてはある。私がターンエンドをしたことで梶木のターンに移行する。さて、お手並み拝見としようか。
「オレのターンじゃい! モンスターを裏守備でセット。そしてカードを2枚伏せて、ターンエンド」
「あれ? 攻撃してこないんだ、というか私と全く同じことをしないでよ」
「お前の真似をしたわけじゃないぜよ! 戦略じゃ、戦略」
つまり、梶木も攻撃力の高いモンスターが手札に居ない、ということになる。流石に攻撃力の低いモンスターを召喚して攻撃なんてことはしてこないか。そんなことをすれば1ターン目はダイレクトアタックを通すことができるが、その次のターンに蜂の巣になる。この様子では、どちらかが攻撃力の高いモンスターカードを引くまで動きはないということだ。どちらが先にカードを引き寄せられるか――
「ドロー! 私は、更にモンスターを裏守備でセットして、ターンエンド」
「モンスターカードは来なかったようじゃのう、オレのターン!」
別にモンスターカードが来なかったわけじゃない、むしろきた。けれども効果モンスターであるが故に攻撃力が高くないのだ。この攻撃力で次ターンまでフィールド上に残すためには、今はまだ召喚すべきではない。そこを見逃してくれるほど甘い相手ではないと分かっている。
「【アビス・ソルジャー<☆4 1800/1300>】を召喚! 更に、【スター・ボーイ<☆2 550/500>】を反転召喚!」
攻撃力1800は分かるけど、攻撃力550を攻撃表示? 梶木のことだから何か考えがあるはず、油断はできない。
「【アビス・ソルジャー】の効果発動! 手札を1枚捨てることで、フィールドのカードを1枚プレイヤーの手札に戻す。オレは【リバイバル・スライム】を墓地に送り、お前の守備モンスターを1体手札に戻すぜよ!」
効果で戻された【ピクシー・ナイト】と場に残ったカードを見比べる、戻されたのがこっちで良かった……負けるとは思わないけど【スター・ボーイ】を反転召喚するくらいだから、それだけの効果があるということだ。
「さてこっからじゃ! 【スター・ボーイ】がフィールド上に表側表示で存在する時、水属性モンスターの攻撃力は500アップする。この効果で【アビス・ソルジャー】の攻撃力は2300!! 【アビス・ソルジャー】で裏守備モンスターを攻撃! その後に【スター・ボーイ】でダイレクトアタックじゃ!」
「なるほど、同じ属性による攻撃力の上昇ね、それで反転召喚か。でもダイレクトアタックはさせないよ! 【薄幸の美少女】の効果発動! このカードが墓地に送られたことで君のバトルフェイズは強制終了される」
「上手く凌いだなー、だが【スター・ボーイ】が存在する限り【アビス・ソルジャー】の攻撃力は2300のまま、そう簡単には倒されん」
攻撃力2300を越えるとなると手は限られてくる……まず考えられる手としては上級モンスターを召喚することだろう。けれど、私の場には生贄にするモンスターが居ない。確かに、今のままの【アビス・ソルジャー】を倒すことは出来ないだろう。
「私のターン。【アマゾネスの射手<☆4 1400/1000>】を召喚、【アマゾネスの射手】で【スター・ボーイ】を攻撃! 誰もモンスターが居ないなんて言ってないからね、これで【アビス・ソルジャー】の攻撃力は元の1800に戻る」
「だが次のターンでお前のモンスターは破壊される、オレが更にモンスターを召喚したら、ダイレクトアッタックじゃ!」
「私が何の考えもなしに攻撃力1400のモンスターを召喚すると思う? リバースカードは2枚、攻撃するならしてみたらいいよ」
攻撃力2300が倒せないのなら攻撃力を上げているモンスターを先に倒せば良いだけのこと、元の攻撃力の攻撃力1800なら射程圏内だし。加えて【スター・ボーイ】は攻撃表示だったので梶木のLPも削ることもできた。ここで召喚した【アマゾネスの射手】の効果を使うには次の私のターンまで場に残って貰わなくてはいけない。リバースカードは2枚、彼は攻撃してくるか……。
「オレのターン! オレは【アビス・ソルジャー】で【アマゾネスの射手】を攻撃だ!」
「臆せず向かってきたことは評価するけど、残念。罠発動、【聖なるバリア・ミラーフォース】!」
「っち、オレは【シーザリオン<☆4 1800/800>】を召喚して、ターンエンドじゃい」
さきほどの攻撃は【薄幸の美少女】で凌げたため、敢えてミラフォを使わなかった。それは梶木に攻撃を止める伏せカードはないと思わせるためでもあったため、上手くミラフォにはまったくれたのはこちらの思惑通り。しかしメインフェイズ1で召喚を行っていたら【シーザリオン】もミラフォで破壊できていた。ダイレクトアッタクの可能性を捨ててでも、場にモンスターを残したってことか。城之内のように直情型に見えて、一手一手が考えられている。しかもまた攻撃力1800だし、厄介な相手だ。
「ドロー。【見習い魔女<☆2 550/500>】を召喚。そしてリバースカードオープン、【血の代償】を発動。LPを500払い、このターンもう一度通常召喚を行うよ。裏守備でモンスターをセット」
「上級モンスターを召喚せんのか? それじゃ【シーザリオン】は倒せんぜよ」
「【シーザリオン】を倒すことが狙いじゃないからね。【アマゾネスの射手】の効果発動! モンスターを2体生贄に捧げることで、プレイヤーに1200のダメージを与える!! 私は【見習い魔女】と【アマゾネスの射手】を生贄に捧げる」
「そのためのモンスター召喚か! 一気に1200も削られるとは思わんかった、やるのー
」
「これくらい出来ないとここまでパズルカード持ち続けてられないって。あと、フルネーム止めてくれない? せめて苗字の呼び捨てにして貰えると嬉しいかも」
「そうか? なら、
。お前が全力でオレと闘ってるっちゅうのが分かる。今までオレは多少お前のことを甘くみてたぜよ、どんな相手でも全力で勝負するのが対戦者への礼儀だといつも思っているオレなのにの」
「ま、女だから甘く見られるってのは自分でも分かってるし、仕方ないとは思ってるから」
「だが、こっからはオレも本気でお前と勝負する! 手加減は一切抜きじゃ!!」
「こっちとしては最初っからそうあって欲しかったけどね」
決闘者同士でしか分からない何かが通じ合った瞬間だった。何か盛り上がってきたぞー!!と外野が騒いでいる声が聞こえる。そういえば、忘れてたけどここって水族館のスタジアムだった。決闘してる時に人に見られるってのは慣れてるけど、親子連れが多いってのがちょっと居た堪れないかもしれない。こういうことも分かっててバトル・シティに参加したんだし、ある意味貴重な体験ということで諦めよう。
「よし、オレのターンじゃ! 【シーザリオン】をもう1体召喚、【シーザリオン】で裏守備モンスターに攻撃する!」
「その守備表示は【ピクシー・ナイト<☆2 1300/2000>】だよ。よって、防御力が上回った分200のダメージを受けて貰う」
「今の【シーザリオン】の攻撃力じゃ無理ってことか」
「そういうこと。だからさっき多少無茶してでも【スター・ボーイ】を倒したってわけ」
「ターンエンドじゃ」
守備力2000の守りは堅い、そうそう破られることはないだろう。【ピクシー・ナイト】で防げている今のうちにこちらも次の手を用意しないといけない。それは分かっているんだけど、攻撃の要となるようなカードが一向に来ない。こういう時に限ってリリーも闇紅も来ないんだよねぇ……いざという時の引きが悪いのは日頃の行いのせいか。そう思いながら、私はカードをドローする。
「私はモンスターを裏守備でセットしてターンエンド」
「魔法カード【サルベージ】を発動! 墓地に存在する【スター・ボーイ】と【リバイバル・スライム】を手札に加える。そして【シーザリオン】で裏守備モンスターに攻撃じゃ!」
「【スフィア・ボム 球体時限爆弾<☆4 1400/1400>】のリバース効果発動。裏守備表示のこのカードが攻撃された際、このカードは敵モンスターの装備カードとなり、次の相手ターンのスタンバイフェイズにこのカードと装備モンスターを破壊。装備モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!!」
「また効果モンスターかい、今度は1800とはキツいのー」
「せっかく本気になってくれたと思ってたのになぁ……」
「なんだと!! オレは本気じゃ、あと数ターンしたら形成逆転してやるぜよ! オレはモンスターを裏守備でセットしてターンエンドじゃ」
ちょっと煽り過ぎたかなぁとも思うが、これくらいじゃなきゃ楽しくない。今日行ってきた決闘の中ではずば抜けて楽しいのに、もっともっと楽しみたいと思ってしまう。それだけ人間の欲は深い、ということなのかもしれない。
「私のターン。【スケープゴート】を発動してターンエンド」
「人のこと散々言うちょってからに、鳥遊こそさっきから守備ばっかじゃのー。攻撃はせんのか?」
「まぁねー私が攻撃しなくてもモンスター効果でLPは減ってくみたいだし」
私のフィールドには4色の羊達がぷかぷかと浮いている。うんうん、スケゴ達は今日も可愛いね、1匹位手元に欲しいよ。触れたらきっともふもふ何だろうなぁ……などと、思わず逃避をしたくなる可愛さだがそんなことをしている場合ではない。そう、さっきから私の手札には全くモンスターカードが来ないのだ。自分でも言ったように私が攻撃しなくてもモンスター効果で梶木のLPは削れている。だが、梶木の場のモンスターは確実に増えている。このままだと上級モンスターを召喚されてしまうから、できることなら攻撃をしたい。でもそれが出来るほどの攻撃力を持つモンスターがいない。スケゴで一応守りを固めてみたけど、ここからどうするか。
「オレのターン、ドローカード!」
「この瞬間、【スフィア・ボム】の効果発動! 【シーザリオン】は破壊、1800のダメージを与える」
「分かってるぜよ! オレは【天使の施し】を発動し、【海神の巫女】を反転召喚じゃ! そして【海神の巫女】の効果でフィールドは海と化す!! 更に罠発動【竜巻海流壁】!! フィールドが海である限り、攻撃モンスターからオレへのダメージはない!!」
フィールド魔法、海……ということは当然梶木のモンスターの攻撃力・守備力を上昇させる効果があるだろう。恐らく梶木のモンスターは全て効果対象になる。加えてあの罠カード、効果モンスターからのダメージは対象外だがモンスターの攻撃は全てダメージは通らない。つまり、モンスター同士のバトルによるダメージも無効ということは破壊も出来ないということだ。フィールドの海を作り出しているのは【海神の巫女】だけれど、あのモンスターの破壊が不可能ということは海の効果も消せない。やばい、本当に形成逆転されてるんだけど……。
「海になったらこっちのもんじゃい、反撃開始だ! 【シーザリオン】と【海神の巫女】で【スケープゴート】2体を攻撃して、ターンエンド」
「私はモンスターを裏守備でセット。リバースカードを1枚伏せて、ターンエンド」
この効果はハイリスクハイリターンだから、あんまり使いたくなかったんだけど、そうも言ってられない。このままじゃまずい、上級モンスターを召喚されて【ピクシー・ナイト】を破壊されたらダイレクトアッタクが通ってしまう。【竜巻海流壁】は今のリバースカードで何とか出来るはずだ。
「防戦一方みたいだのー。オレのターンじゃぁ! 手札から魔法カード【テラ・フォーミング】発動。フィールド魔法を1枚手札に加える、オレが加えるのは【伝説の都 アトランティス】、【アトランティス】発動!」
っく、これで【海神の巫女】を破壊出来たとしても、フィールド魔法で海の効果は維持される。そんなに海が良いのか、勘弁して欲しい、私は海は嫌いだ。とりあえず、あの裏守備モンスターを攻撃してくれれば現状は多少なりとも回復するんだけど、そこに乗ってきてくれるかどうか。
「バトルフェイズだ、【シーザリオン】で裏守備モンスターを【海神の巫女】で残りの【スケープゴート】1体を攻撃じゃ!!」
「かかった! 【サイバー・ポッド<☆3 900/900>】のリバース効果発動!」
「そうはいかんぜよ! カウンター罠発動【天罰】! 手札を1枚捨てて、効果モンスターの発動と効果を無効にする!」
「あー! せっかくのサイポが……。ん? ちょっと待って。そのカード1ターン目から伏せてたよね? 何で【スフィア・ボム】とか【アマゾネス】の時に使わなかったの?」
「オレにとっては今が使い時だったちゅうわけじゃ」
「これは読めなかったな。あるなら使ってるもんだと思ってた」
「へ、どんな戦局であれ油断は禁物じゃ。それに、オレのターンはまだ終わってないぜよ」
何か、くる。決闘としての勘がそう言っていた。サイポの効果も封じられた今、圧倒的に不利な状況に居る。ミラフォも最初で使ってしまったし、モンスターの一掃が出来るカードはもうデッキに残っていない。そんな状況で、何が――
「魔法カード【要塞クジラの誓い】発動!! 場の【シーザリオン】と【海神の巫女】を生贄に捧げ、オレは【要塞クジラ<☆7 2350/2150>】を召喚する!! ターンエンドじゃ、さぁどうする
?」
次のターン、ダイレクトアタックをされたとしても私のLPはまだ半分以上残っている。けれども例え次のターンをやり過ごしたとしても、手がなければ意味はない。どっちにしろ、次のドローに掛かっているということだ。とりあえず、今は時間が稼げれば良い。それだけのカードがくれば。
「私のターン、ドロー!! 攻撃はさせないよ、魔法カード【光の護封剣】を発動!!」
「3ターンの間にこの状況をどうにか出来るとでも?」
「どうにかしてみせる、私はまだ諦めてないから」
逆転への兆しはある、手札のこのカードを使いさえすれば良い。けど、使うためには必要なカードが1枚足りない。チャンスは後2回。その間にカードを引き寄せてみせる!
「オレのターン。【スター・ボーイ】を召喚してターンエンド。これで【要塞クジラ】の攻撃力は3050じゃ!!」
「ドローカード!」
違う、このカードじゃない。
「私は【D.D.アサイラント<☆4 1700/1600>】を召喚! そして罠カード【王宮のお触れ】発動! 全ての罠カードは無効になる、当然【竜巻海流壁】もね。これでダメージを与えられる、【アサイラント】で【スター・ボーイ】を攻撃! 450のダメージだよ」
「この状況でもLPを削りにくるとは流石だな! だが【光の護封剣】で攻撃は出来なくとも、モンスター効果は使えるんじゃ! オレは【同族感染ウィルス<☆4 1600/1000>】を召喚! 【同族感染ウィルス】の効果で手札を1枚墓地へ送り、戦士族を選択。選択された種族のモンスターは破壊される、【D.D.アサイラント】は破壊されるぜよ!」
「ダメージは0だけどね。言っとくけど、私のLPはまだ7500、それに対して梶木のLPは4000。LPだけで言うなら私の方が圧倒的に有利」
「それはLPだけ見ればの話じゃい! 【要塞クジラ】が居る限り、オレの優勢は揺るがんぜよ」
今の状況では梶木の言葉に反論は出来ない、それでも負ける気はないんだけどね。それに、次のドローで来る気がしていた、私が待っていたカードが。百聞は一見に如かずと言うし、引っくり返してみせるよ、この状況を。
「私のターン! きたよ、逆転のカード!」
「この【要塞クジラ】を攻略出来るならしてみるんじゃな!」
「やってやろうじゃない。いくよ、私は【魔導獣ケルベロス<☆4 1400/1400>】を召喚!」
「攻撃力1400? そんなモンスターでどうするつもりじゃい」
「この子は甘く見ない方が良い、食いちぎられるよ。更に魔法カード【ディメンション・マジック】を発動! 場の【ピクシー・ナイト】を生贄に【見習い魔術師】を守備表示で特殊召喚!」
「わざわざ守備力の高い【ピクシー・ナイト】を生贄にするとは、意味が分からんぜよ……」
【ディメンション・マジック】は自分フィールド上に魔法使い族モンスターが表側表示で存在する場合に、フィールドのモンスターを1体生贄に捧げることで手札から魔法使い族モンスターを特殊召喚することが出来る。本来は上級モンスターを召喚する時に使うのだけれど、今の私にとってこの【ディメンション・マジック】を「発動」すること自体が狙いの一つだ。【ディメンション・マジック】のもう一つの効果、それは――
「【ディメンション・マジック】によってフィールドにモンスターが特殊召喚された後、フィールド上のモンスターを1体破壊することが出来る! 私が破壊するのは当然【要塞クジラ】!!」
「なんじゃと!?」
「もう1枚、魔法カード【サイクロン】を発動! 【伝説の都 アトランティス】を破壊! 海はあんまり好きじゃないんだ、悪いね」
海フィールドのソリッドビジョンが消えていく。【竜巻海流壁】はこれで完全に無効化されたといって良いだろう。【サイクロン】であちらを破壊することも出来たけれど、それだと海フィールドの効果は残ってしまう。だから【王宮のお触れ】で罠自体を封じる手を取ったのだ。まぁ、問題点としては自分も罠を一切発動することが出来ないということなのだけど、今は必要ないので気にしないことにする。
「ここで【ケルベロス】の登場。この【ケルベロス】はね、魔力カウンターの量によって攻撃力が変化するんだよ。今私が発動した魔法カードは2枚。よって【ケルベロス】の攻撃力は500×2つまり1000上昇する!! 【ケルベロス】で【同族感染ウィルス】を攻撃!!」
これで梶木のフィールドにモンスターは0。対して私のフィールドにはモンスターが2体。LPにおいても、フィールドにおいても、私の優勢になったということだ。
「ターンエンド。どう? 【要塞クジラ】を攻略された気分は」
「口に出したくもない気分ぜよ。オレはモンスターを裏守備でセットしてターンエンドじゃ」
梶木のエンド宣言と同時に【光の護封剣】の効果が切れる。だが、攻撃の要となるはずだった【要塞クジラ】はもう居ない。3ターン、無事に時間稼ぎの効果を果たせたようだ。
「ドロー。私は【ケルベロス】で【リバイバル・スライム】を攻撃!」
「【リバイバル・スライム】の効果発動! LPを1000払うことで、次の自分のスタンバイフェイズに特殊召喚する」
LP1000はそう安いもんじゃない。しかも梶木の残りのLPから言っても、簡単にコストとして払って良いものではないだろう。【リバイバル・スライム】とはLPを払ってでも、残す価値のあるモンスターなのだろうか? けれども、スライムがいることでダイレクトアッタクが出来ないというのも事実。【ケルベロス】にダイレクトアタックされるよりはLP1000をコストに払った方がダメージは少ない。
「私のターン。リバースカードを1枚セットしてターンエンド」
攻撃したところで梶木は恐らく【リバイバル・スライム】をまた復活させるだろう。勝手にLPを削ってくれるのだからそっちの方が有難いかもしれないけれども、何を考えているのか分からない。それに【ケルベロス】は闇紅と違って一度攻撃をすると、元の攻撃力に戻ってしまう。今は【見習い魔術師】の効果で魔力カウンターを一つ置いたから1900となっているが、ここで【リバイバル・スライム】を攻撃すると1400になる。すると、次のターンで倒されてしまう。もしそれを狙っているのだとしたら、まんまと罠に嵌るわけにはいかない。
「オレのターンじゃ。モンスターを裏守備表示でセット。さぁ、お前のターンぜよ」
「私のターン、ドロー!」
これでまた梶木の場にモンスターが2体揃ってしまった。次のターンでまた上級モンスターを召喚されると困る。攻撃するか、しないか……。
「私は……【ケルベロス】で裏守備モンスターを攻撃!」
「そのモンスターは【グリズリー・マザー】だ!! 墓地に送られた【グリズリー・マザー】の効果によってデッキからモンスターを1体特殊召喚する」
「せっかく倒したと思ったのに、これじゃ意味なしか」
しかも【ケルベロス】の攻撃力は1400になってしまった。これはまたしてもまずい展開だ。次のターン、梶木は確実に上級モンスターを召喚してくる。私の場には【ケルベロス】と【見習い魔術師】と【スケープゴート】が1体。攻撃表示の【ケルベロス】はまず狙われるだろう。
「ターンエンドだよ」
「オレは今からこの状況をもう一度逆転してやるぜよ! 【海月―ジェーリーフィッシュ―】を生贄に、【伝説のフィッシャーマン召喚<☆5 1850/1600>】を召喚じゃぁ!」
【伝説のフィッシャーマン】攻撃力としてはそれほど高くはないが、あそこまで言うからには何かあるに違いない。それにあのモンスターにはどこか、他のモンスターと違ったものを感じるような気がする。
「手札から、魔法カード【団結の力】を発動! この効果によって【フィッシャーマン】はオレの場にあるモンスターの数×800攻撃力が上がる! よって【フィッシャーマン】の攻撃力は3450、【ケルベロス】に攻撃じゃ!!」
「魔法カードが使用されたことで【ケルベロス】の攻撃力は1900に上がる。よって攻撃力差分の私のLPへのダメージは1550」
「更に攻撃表示に変更した【リバイバル・スライム】で【スケープゴート】を破壊。これでターンエンドだ」
「【団結の力】とは……考えたね。リスクがないのにこれだけの攻撃力を上げるなんて、随分と面倒なカードを入れてるなぁ」
「【フィッシャーマン】は攻撃力が低いからな、コイツを決闘で活かすために探したカードじゃ」
「あのさ、梶木にとって【フィッシャーマン】って凄く大切なカードだったりする?」
「あぁ。【フィッシャーマン】はオレの魂のカードじゃ」
「そっか、何かそんな感じがした」
それを聞いて私は薄く微笑んだ。他のモンスターと違ったものを感じたのは、多分そんな梶木の思いがカードに移っていたからだろう。海馬に言ったら「そんな非ィ科学的なことは有り得ん」とか言われそうだけど。そんなモンスターを倒すのは若干気がひけるが、これも勝負。あのモンスターを倒さないことには私の勝利はないのだから。
「私のターン。【ハンニバル・ネクロマンサー<☆4 1400/1800>】を召喚! 【ハンニバル・ネクロマンサー】の効果によって【王宮のお触れ】を破壊してターンエンド」
海フィールドがなくなった今となっては【竜巻海流壁】の効果は成されない。【王宮のお触れ】があってもなくても、同じだ。それに私が罠カードを使うためには【王宮のお触れ】が今となっては邪魔になってきている。今出来ることはこれだけ。こう言うのは変だけど、あとは梶木次第だ。
「なら、オレのターンじゃ! 【フィッシャーマン】で【ハンニバル・ネクロマンサー】を攻撃! 【リバイバル・スライム】で【見習い魔術師】を攻撃だ!! 鳥遊、2050のダメージぜよ!!」
「く……【見習い魔術師】の効果発動! デッキから星2以下の魔法使い族モンスターを場にセットする」
「これでお前のLPは4400、次のターンに【フィッシャーマン】のダイレクトアタックが通ったらLPは逆転する!」
「それはどうかな、私のターン! 【執念深き老魔術師<☆2 450/600>】を反転召喚! この瞬間、リバース効果が発動。フィールド上のモンスターを1体破壊する、もちろん破壊するのは【伝説のフィッシャーマン】!!」
「オレの【フィッシャーマン】が……っ!」
これで【フィッシャーマン】に装備されていた【団結の力】も墓地に送られる。あとは【リバイバル・スライム】だけだ。けれども【執念深き老魔術師】だけじゃ攻撃出来ない、もう一体のモンスターを呼び寄せる、そのためにさっきのターンで【王宮のお触れ】を破壊したのだ。
「そして、罠発動【リビングデットの呼び声】!! 【魔導獣ケルベロス】復活。更に魔法カード【コストダウン】を発動」
【コストダウン】の発動に意味はない。【ケルベロス】の元の攻撃力では【リバイバル・スライム】を倒すことは出来ないため、魔力カウンターを溜める目的で発動した。これで【ケルベロス】の攻撃力は1900、【リバイバル・スライム】を超えた!
「私は【ケルベロス】で【リバイバル・スライム】を攻撃! その後、【執念深き老魔術師】でプレイヤーにダイレクトアッタク!!」
「く、お前の効果モンスターはえげつないもんが多いのー」
「実用的と言って欲しいな。私は魔法カード【月の書】を発動。【執念深き老魔術師】を裏守備に変更して、ターンエンド。さあ、梶木のターンだよ」
頼みの【フィッシャーマン】が破壊された今、梶木にもう手はないはず。例え次のターンで壁モンスターを召喚されたとしても、数ターンのうちに決着は付く。この圧倒的不利な状況で、彼はどうくるだろうか?
「オレは、手札より【死者蘇生】を発動!! 墓地からモンスターを特殊召喚する!!」
このタイミングで【死者蘇生】か、何を蘇生させる? 対象は自分の墓地だけじゃなく相手の墓地、つまり私の墓地も入る。私の墓地には攻撃力の高いモンスターは居ないが除外効果を持つ効果モンスターや守備力の高いモンスターは沢山居る。そのどれかを召喚されたら勝負は分からなくなる。
「オレは……【伝説のフィッシャーマン】を特殊召喚!!」
「なんで!? 私の墓地から【D.D.アサイラント】とか召喚してたら、勝負は分からなかったのに!」
「勝ち負けの問題じゃない、譲れないもんがオレにあっただけじゃ、悔いはないぜよ。【伝説のフィッシャーマン】で裏守備の【執念深き老魔術師】を攻撃!」
「そう……なら私が言うことは何もないね。私のターン、【見習い魔女<☆2 550/500>】を召喚。【ケルベロス】で【伝説のフィッシャーマン】の攻撃! そして【見習い魔女】でプレイヤーにダイレクトアタック!!」」
2度目のフィッシャーマンの破壊、梶木はどんな気持ちでこの様子を見てるんだろうか。でも、ここで同情されることなんて彼は望んでない。だからソリッドビジョンの【ケルベロス】が【フィッシャーマン】に食らいつき、彼が消えていくまでの様子を私はじっと見つめていた。
◆◆◆
「へ、オレの負けじゃい! 見事だったぜよ、
」
「有難う、私も梶木と決闘出来てすごく楽しかった」
「約束じゃ、【要塞クジラ】をアンティとしてお前に渡すぜ!」
そう言って、梶木はカードを差し出したきたが、それに対して私は首を振って答える。
「ごめん。私最初からアンティルールなんてするつもりなかった、この大会で私は誰かからカードを貰うことはしないって決めたから」
「
はそれで良いのか?」
「心に決めたことだから。それに、ちょっと大会の裏事情ってものを知っててね。私が偶然特殊パズルカードの持ち主になったわけじゃないってのは薄々気付いてるでしょ?」
「まぁなぁーならオレからは何も言わんぜよ。お前と決闘出来て楽しかった、それだけじゃ!」
梶木がニカっと笑ったのに、私も笑顔で返す。勝っても負けても恨みっこなし、とは正にこういうことを言うのだろう。後腐れがない最後まで清々しい気持ちで終われた。
「お姉ちゃんが勝ったね!」
「女の子だし、直ぐ負けちゃうかと思ったけど、そうでもなかったなぁ」
「でも二人ともとても楽しそうだったな」
耳に入ってきた声でここがどこであったか思い出す。そういえば、私シャチのショー見るためにこのスタジアム来たんじゃなかったっけ? とっくに時間が過ぎてると思うけど、シャチのショーはどうなってるんだろうか。
「あのさ、梶木。私達ここで決闘とかしちゃってたけど、シャチのショーってどうなってるわけ?」
「ん? あぁ、それならオレが代役をするはずだったんじゃ。時間も丁度良いくらいだし、そろそろ始めるかのー」
「代役? ふーん、色々あるんだ」
「そうじゃ、お前もせっかくだから見ていかんか? 海を知るオレがするシャチのショーなんて、今日じゃなきゃ絶対見れんぜよ!」
「そうだね、面白そうだし見てみよっかな。梶木がシャチに噛まれたりしないか、期待してるよ」
「お前……やっぱり相当変わってるのー」
「さっきの決闘に免じて、詳しくは追求しないであげるよ」
梶木にひらひらと手を振って座席の方へと戻る。それは勿論、これから始まるというショーを見るために。
歩きながら私は先ほどの決闘について考えていた。戦局を2度も引っくり返されたのは初めてだった、と思う。一度ならずとも二度までも、というのはこういう時に使う言葉だったかな。儀式モンスターは【死者蘇生】の効果対象外。だから梶木は【要塞クジラ】が呼べなかった。もしも【要塞クジラ】が呼ばれていたら、私が負けていたと思う。でも、例え【要塞クジラ】を呼べたとしても、やはり彼は【伝説のフィッシャーマン】を呼んだような気がする。
「勝ち負けの問題じゃない、譲れないもの、か」
私にとって譲れないものは何だろうか? 今はまだ分からないけど、このバトル・シティを通してそれを見付けられたら良いなと思う。それは決勝に進出することとは別に出来た、私の中の新たな目標だった。