赤い宝石2 (K 草薙)


買い出しに出掛けていた草薙と十束が戻ってくると、それに続くようにして吠舞羅のメンバーが銘々に店へと訪れた。半数以上残っていたタルトはあっという間に箱の中から姿を消してしまい、予め取り分けていた最後の一切れを、つい先ほど上の階から降りてきた周防が食べている。

「尊のやつ、あれ食べきれんのとちゃうか?」

カウンター越しに話し掛けられソファの方へと向けていた視線を正面へと戻すと、声の主はカウンターに片肘をついてこちらを覗き込むように見ていた。これからも慣れることのないであろうその距離感への不満を飲み込みながら、私はあれが誰の意図によるものかを説明するのだった。それは恐らく誰もが納得をする、納得せざるを得ない理由だから。

「それは私もアンナに言ったけど。でもアンナに『どうしても』ってお願いされたら断れる?」
「お姫様のお願いやったらそりゃしゃーないな」
「それに食べきれなかったとしても、アンナが悲しむようなことにはならないだろうから、まぁ良いかなと」

多種多様なベリーの素材の味を活かすように作られているため甘過ぎるということはないが、それでも彼が完食することは難しいだろう。例え彼が食べきれなかったとしても、捨てられるようなことにはならないであろうことも分かっていたから。どういう意味か、という草薙の視線への答えとして再びソファの方へと視線を向ける。一口分として決して少なくはない量が削られたタルトの乗った皿が、周防の前から隣に座るアンナの前へと移動したところだった。

「私はアンナが笑ってくれるならそれでいいの」
「なるほどなぁ」
「何か言いたそうだけど」
「いや、あのタルトの意味が俺にもようやく理解出来たと思うて」

どこか含みのある笑みを浮かべる草薙には、恐らく全てお見通しなのだろう。けれども素直にそれを認めてしまうのは悔しくて、私は同じ質問をもう一度繰り返した。

「何が、言いたいの?」
「十束から聞いたんやけど、一日5台限定でベリーを贅沢に使ったタルトを売ってる店があるっちゅう話でな。なんでも、雑誌にも紹介されるほど大層な人気で、朝から並ばんと買えへんらしいで」
「ふーん、それは大変ね」
「せやなぁ、大変やったろうな」

他人事のように言う私の方を向いて同じ言葉を口にするその顔を確認する気にはなれなくて、私はそっと視線を正面から外す。

「馬刺、今は白あん煮込み豆腐やったか。あいつが居のうなってから、アンナえらい落ち込んどったやろ。何とかしてやりたいとは俺も思うてたんやけどな」
「私、草薙のそういうとこ嫌い」
「さよか」
「……私、出雲さんのそういうとこ嫌い」
「そうやってわざわざ言い直したりするん含めて俺は好きやで」

さもおかしそうに笑うその声を聞いて、私はますますふて腐れる。その行為が更に彼を楽しませるだけだと分かっていながら、それでもそうせずにはいられなかった。

赤い宝石 (K アンナ)


「はい、どうぞ」

そう言って差し出された白い箱を前にして、アンナは不思議そうな顔をしていた。どうしたら良いのか、とこちらを伺うような視線が向けられたので「開けていいよ」と告げると、彼女はそっと蓋を持ち上げる。そして中から現れたものを目にした瞬間、ぱぁっと彼女の顔が明るくなった。

「きれい……」
「宝石みたいだよね。来る途中で見掛けて、思わず買っちゃった」

敷き詰めるように綺麗に飾られた真っ赤なベリータルト。その表情を見れば、彼女を喜ばせる贈り物としては十分だったことが分かる。勝手知ったる何とやらで、不在のマスターに代わりカウンター内から皿やフォークなどを取り出してアンナの横へと戻ると、彼女の視線は未だにケーキに釘付けのままだった。

「さて、アンナ。せっかくだし先に食べちゃおうか」
「……いいの?」
「これを買ってきたのは私。そして私は一人で留守番をしているアンナにこれを食べて欲しいと思ってる。ね?」
「ありがとう」

草薙と十束は買い出し、周防はまだ上で寝ているらしい。ちなみに時刻はとっくに正午を過ぎている。アンナと二人で先に食べてしまったところで、とやかく言われるということはないだろう。全員に行き渡るようにと考えるとかなり細かく切り分けなくてはいけないが、そこは早いもの勝ちということで一般的な八等分にケーキを切り分けていく。切り分けたケーキを皿に乗せてフォークと共にアンナへと渡す。私も同じように一切れ取り分けると、残りは再び箱の中へと戻して冷蔵庫へと仕舞わせて貰う。

私のことを待っていてくれているのであろうアンナにカウンター越しに「召し上がれ」と声を掛けると「いただきます」と返ってくる。フォークを口へと含み綻ぶ彼女の顔は、ケーキの対価としては十分過ぎるくらいだった。