バトラーを主張します (Fate/sn タイころ アーチャー)


「家政夫と執事ってやってることはそんなに違いは無いと思うのだけど」
「いや、大いに違う。聞く者に与える印象を考えてもみたまえ」
「……家政夫は苦労人かつ庶民っぽくて、執事は仕事人間で気品があるとか? どちらにせよメシ使いよりはマシでしょう」
「それについては否定出来ないな」
「結局、成長してもやることは変わらないってことね。でも女の子に仕えるって中々楽しいんじゃないの?」

如何にも”愉しんでいます”といった笑みを浮かべているに対して、アーチャーは溜息を吐く。 口で言う割には彼女は自分を大切に思っていないのではないかと時々疑いたくなるのは、こういう面があるからだろう。 尋ねてみた所で返ってくるのは否定であることは分かっているし、それは無駄な不安を彼女に抱かせることになる。 そう思うと実行することが出来ない辺り、彼は彼女に甘いと言える。

「楽しいと思える程の余裕があれば良かったがね。この仕事は君が思っているようなものではないということだ」
「そうなの? だってアーチャーの好きな物は家事全般でしょ、好きなことを仕事に出来るって昨今の現代社会では幸せなことよ」
「以前にも言っただろう。好きでやっているわけじゃない、「できる」と「好きである」とは別物だ、と」

確かにアーチャーも嫌いであったならばここまでの技術を獲得することは無かったのだろうし、その点を見れば「好きである」と言えなくも無いのかもしれない。 しかしそれ以上に、共に暮らしていた切嗣とがどちらも料理が壊滅的だったからという理由を思えば、こうして当の彼女にそのことをネタにされるのは何とも理不尽な話だった。

「ああ言えばこう言うんだから、口だけは達者になっちゃって。アーチャーだって世間一般の執事という仕事を知らないじゃない」
「英霊は召喚された瞬間にその時代の知識を得る。現代の執事というものについても私は把握しているつもりだが?」
「そう……なら執事は最終決戦で若返ったりとか、悪魔で執事だったりとか、両親がギャンブル好きで多額の借金を抱えてたりとかいう設定があることも分かってる?」
「何処の次元の話をしているんだ、もう少し世界観というものを考えてくれ」
「別に強要はしないから。あ、でも最近流行りの毒舌執事なら意外といけるんじゃない? 仕えてるのがちょっと抜けてるお嬢様というのも一致しているし」
「君はそんなに私が執事を名乗るのが嫌なのかね?」
「……嫌よ。だって義理とは言え姉弟というだけでも大変なのに、主従関係なんて更にハードルを上げることになるもの」

ほんの少し拗ねたような表情で告げられた言葉はそれだけでここ数分の彼の悩みを消し去った。 普段は義弟として扱うくせに、不意にこうして本音を垣間見せたりする。 そんな彼女が卑怯だと感じながらも、愛しくて堪らない。

(2011.10.30)

にらめっこ (Fate/sn タイころ アーチャー)


ばんっ! と食卓を叩いて抗議の姿勢を示すと、は向かい側に居る相手をじーっと睨み付けた。

「アーチャー、今直ぐバゼットに謝りなさい」
「様子がおかしいとは思っていたが……そのことか」
「そうよ。うら若い女性を捕まえて青年と間違え、しかもそういう趣味の人扱いだなんて。私はそんな子に育てた覚えはありません!」

先日イリヤから聞かされたアーチャーの暴言は、幾ら虎聖杯などという規格外のものに振り回されていたからとは言え、看過出来るものでは無かった。 確かにバゼットは外見も中身も女性的であるとは言い難い部分が多いかもしれないが、それでも彼女が女性であることに代わりは無い。 本人が気にしているのだから、アーチャーの言葉はさぞかし彼女を傷付けたことだろう。

「あの時は私もどうかしていた、今ならば間違えたりはしないさ」
「言い訳は認めません、間違えたことには代わり無いでしょう。いくら男装しているとは言え、身体のラインを見たら一目瞭然じゃない」
「私に言わせれば、君の方こそもう少し発言に気を付けるべきだと思うがね」
「その言葉から変な想像を膨らませる方が悪いのよ。あぁ、そういえば好みの女性の話をする時に両手でボディラインを描くような人だものね、貴方は」
「……何故、君がそれを知っているんだ」
「そんなものは些細なことよ。他にも色々あるけれど、私は別に気にしてないわ。でも、貴方のマスターはそうはいかないでしょうね?」

幼い頃よりその成長を見てきたは彼の趣味嗜好など知り尽くしている。 だからこそ今更気に留めることも無いが、凛はそうもいかないだろう。 魔術一筋で生きてきた彼女はそういったことに耐性が無い。 もし知られたとなれば、どのようなことになるかは容易に想像が付く。

「それで、君の望む条件は?」
「最初から言っているじゃない、バゼットにきちんと謝りなさい。あと今度バゼットと買物に行くから、その時に荷物持ちね」
「了解した。……君は最近マスターに似てきてたな。あの手の人間が増えるのは、こちらの気が休まらないので勘弁して貰いたいのだが」
「ふーん、『ああいうの』は好みでは無い?」
「好みでは無い。が、好意を持つ相手というのは必ずしも好みの相手とは限らないな」

机越しに伸ばされた手が頬に添えられ、笑顔を向けられる。 直接的な言葉は無くても、言いたいことその視線が何よりも雄弁に語っていたから。 耐え切れなくなって視線を逸らしたのは彼女の方だった。

(2011.10.30)