馬に蹴られる (Fate/sn タイころ ギルガメッシュ)


が其処に居合わせたのは全くの偶然だった。 偶々商店街に買い物に来ていた彼女は、眼鏡を着けたあかいあくまの凶行現場に遭遇してしまったである。 そして運悪く、ある意味では運良く、この事態に巻き込まれてしまった。

「ギル様とランサーさん、それに凛さん? 何をされてるんですか?」
! 丁度良い所に来たわね。貴女ちょっと眼鏡とか掛けてみる気はない?」
「眼鏡、ですか? そうですね……見るに凛さんはお困りのようですし、構いませんよ」
「ありがとう、は本当に良い子よね。他の連中もこうなら楽なのに……」
「良い子って、の方がお嬢ちゃんより年上だろうが」
「シャラップ! 負け犬は黙ってなさい」
「犬って言うな!!」

ランサーを軽口で往なしながらも、凛は魔術を行使して三人に眼鏡の魔力を移す。 こうして更なる被害者が生まれたわけだが、その内一人は甘んじてそれを受け容れたので被害者とは言えないかもしれない。 魔力を移されたは何かを確かめるように自分の胸元に手を当てていた。

「あぁ、やっぱり眼鏡を掛けると減るんですね」
「なんだ減ったのか? 見掛け上は変わりないように思えるが」
「てめぇはなに普通にセクハラをしようとしてるんだよ! そもそもの元のサイズ知ってるのか!?」
「当然だろう。のことで我が知らぬことはない」
「……それだけ聞くと惚気られてるような気がするけど、話の内容が台無しにしてるわ」
「いや、アイツに惚気てるつもりはないだろうな」

話題の渦中である筈のはと言えば、ぼーっとした様子である一点を見詰めていた。 セクハラをされそうになったことなど、彼女にとっては気に掛けるに値しないことだったようである。 それよりも、彼女の気を惹いて止まないものがあった。

「さっきからぼーっとして、どうしたのよ。まさか何か副作用でもあった?」
「あ、そういったことはないですから。大丈夫ですよ」
「それなら何でそんな……もしかして、ギルガメッシュの眼鏡姿に見惚れてたとか?」

凛としては冗談のつもりだったのだろう。 だから、が顔を真っ赤に染めて恥ずかしげに俯いてしまったことに誰よりも困惑したのは彼女だった。 救いを求めて思わず赤いサーヴァントを探したが、そういえば今は別行動中だったことを思い出し、止むを得ず青い彼に助けを求める。

「ちょっと! 何であの子あそこまであからさまな反応するのよ! 相手はあの金ピカよ?」
「あー…まぁ、お嬢ちゃんの預かり知らぬ何かがあるってことだよ」
「えぇ分からないわ、理解不能よ!」
「安心しろ。俺も分かってないし、分かりたくもない」

しみじみと語り合う凛とランサーを余所に、ギルガメッシュはへと歩み寄る。 彼が寄って来たことが分かったのか、はびくりと身を竦ませると僅かに後ろへと後退する。 決して後ろめたいことがあるわけではないのだが、それは反射的な行動だったのだろう。

よ、眼鏡を掛けている我がそんなに目を惹くか?」
「……はい。印象が、随分と変わるので」
「そうか、お前が気に入ったならばこれからも掛けてやっても良い。だが――」

会話をしながらも距離を詰めていたギルガメッシュはの頤を捉えると、掠めるようにその唇を塞いだ。 珍しくも僅かな間で離れていったその顔を、は先ほど以上にぼーっとした表情で見詰める。

「キスをする際には邪魔だな。お前もこの程度では足りないのだろう?」
「私は、別にそんなことは……」
「フ、無いとは言わないか。しかし外れぬのだから仕方あるまい、今はこれで代わりとせよ」

再び顔を近付けると、今度は彼女の頬や瞼へと口付ける。 の方も顔を赤くしてはいるものの、それを嫌がる素振りは無い。

「……それじゃランサー、私は次のターゲットを探しに行くから」
「待て! 俺をこの状況に一人で残す気か!?」
「何よ、だったら一緒に来る? 私は別に構わないけど」
「いや、それもそれで碌な目には合わない気がする」
「だったら勝手にすれば良いでしょ。とにかく、私は一分一秒でも早くこの場所から立ち去りたいの!」
「その意見には全面的に同意する。俺だってこんな所に居たくねぇっての、全く―――」

周囲の精神衛生の為にも、ラブシーンは時と場所と機会を考えろ。

2011.10.31.

その判定はボールではなく (Fate/sn タイころ ギルガメッシュ)


こうして衛宮士郎含むイケメン・サーヴァント達は、虎聖杯を手に入れた黒桜の願いによって逆ハーレムの一員となったのでした。
めでたしめでたし――

「ではないわ! 何だこのエンディングは、何故我が雑種に傅かなくてはならん!」
「ギル様、私に言われても困ります。所謂ファンディスクというものですから、何でもあり、ということなのでしょう」
「そうであったとしても、王たる我が聖杯の紛い物如きの良いように使われるなど認められるわけがないであろう!」
「ですが私は、ギル様の意外なお姿も見れて楽しかったですよ? その服装もお似合いだと思います」

その言葉でギルガメッシュの動きがぴたりと止まる。 は気付いていないが、それは彼の機嫌を直すには十分に効果のあるものであった。 その場に脱ぎ捨てようとしていた黒スーツをきちんと着直したギルガメッシュは、既にいつもの余裕を取り戻している。

「この我に着こなせぬ服があるわけがなかろう。当然のことを言っても我の気は紛れぬぞ」
「そうですね。その服装で敬語を使われるギル様はまるで知らない方のようで、少しどきどきしました」
「そうか。お前もあの雑種のように我を傅かせたいと思うのだな?」
「いえ、そういうわけでは。私はギル様にお仕えすることが好きですし、ただ……」
「『ただ』なんだ? 申してみよ」
「執事の振る舞いをされるギル様も素敵だと思っただけです。だから別に傅いて欲しいなどとは全く思っていませんからっ!!」

わたわたと目に見えて慌てふためくを前にしてギルガメッシュは肩を震わして笑う。 その様子に彼が怒ってはいないらしいと分かりほっと緊張を解いた。正にその瞬間を見計らったかのように、彼女の身体が宙に浮いた。

「ギル様っ!?」
「これで目線は我より上となったであろう。どうだ、我を見下ろす気分は」
「どうだと聞かれましても、それ所では無いです! あの、ギル様。恥ずかしいので降ろして下さい……」
「ふむ、その言葉遣いもそぐわないな。、敬称を使わず我と話すことを許す」
「ですから、いきなりそのようなことを言われても無理です。私がどなたにもこの話し方なのをご存知でしょう?」
「我が許しているのだ、遠慮することは無いぞ」

ギルガメッシュなりに彼女の思いを汲んでの行動であったのだろうが、常人には理解し難い思考回路もってして処理されたことからそれは斜め上を行く要求となって彼女に返ってきていた。 今日一日その格好で居てくれるだけで良かったのに、どうしてギルガメッシュに抱え上げられた状態で敬語を使わずに話せなどという無茶振りをされているのか。 あまりの超展開に事態を理解することを放棄したは擦り込まれた意識に従った。 この声に従っていれば間違いはないのだと。

「……降ろして、ギルガメッシュ」
「いつもの我を立てるお前も良いがそのような話し方も悪くない。気が変わった、日付が変わるまでこの余興は続ける。この我と対等に話せるなど滅多に無い機会だ、お前も存分に愉しむが良い」
「そんなこと、無理に決まってるじゃない……ですか」

ストレートな言葉に返ってきたのは変化球。 ストライクゾーンを外れたと思ったら、内角に入ってストライク。 単純に見えても、彼の行動は彼女に読めない。

2011.10.30.